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1. エンドウ・ソラマメ

     医学博士 遠藤 仁郎 

     これから、おいしいエンドウやソラマメが出ます。

    キヌサヤ
     キヌサヤエンドウは野菜なみで、熱量や蛋白質は少ないが、アルカリにとみ、ビタミンもすべてそろっています。

    生マメ
     生マメはエンドウ・ソラマメとも、ビタミンのそろっている点は野菜にちかいが、熱量も蛋白質もかなり多く、酸性度の強い点は(カルシウム対燐の至適比は1:1〜2のところ、エンドウは1:6.3、ソラマメは1:4.7)主食に類するわけで、いわば、その中間のものですが、どちらかというと、むしろ主食としての性格の方が勝っているようです。
     しかも、熱量対ビタミンB1の比は(至適比1カロリー対1ガンマ)、エンドウで1:2.45、ソラマメで1:1.67と、B1によほどの余祐があり、大根葉を僅か25グラム添えるだけでも、カルシウム:燐の比は、エンドウ・ソラマメとも1:1.9と、理想的のバランスになるという、すぐれた食品です。

    乾燥もの
     エンドウ・ソラマメとも乾燥ものは、他の一般の豆類と同じく、熱量は多く、大体、穀物なみ。蛋白質にもとんでいますが(エンドウ21.7、ソラマメ26.0)、質的には余りよい方ではありません。カルシウムは相当多いが(エンドウ58、ソラマメ100)、燐はさらに多く、カルシウム対燐の比は、エンドウ1:6.2、ソラマメ1:4.4の酸性の強い食品。
     ビタミンでは、Aは少なく、Cは0。
     Bにはとんでおり、熱量とB1との比は、エンドウ1:2.15、ソラマメ1:1.5と、かなりB1に余祐があります。そして、大根葉を100グラム添えるだけで、いずれも十分みたされ、カルシウム:燐の比も1:1.6と、理想的になります。

     ところで、エンドウにしてもソラマメにしても、ふつう、副食物にされています。けれども、栄養的には、以上のように、野菜にあたるものはキヌサヤだけ。乾燥マメでも、生マメでも、ともに野菜というよりは、むしろ穀類や芋類と同様の熱量食品です。しかも、白米を完全にするには良質ナッパ、たとえば大根葉3倍量を要し、半搗や麦類は2倍を要するのに比べ、乾燥ものでは同量で十分だし(玄米、ソバなみ)、生マメでは僅か1/4量だけでよいのだから、芋類(1/2量で釣り合う)よりもさらにすぐれた良主食品です。
     ですから、キヌサヤ以外の豆は、おかずとして食べるべきではなく(おかずとしてでは、主食ばかり食べていることになり、食の改善にはならぬ)、主食として米飯に代用すべきであり、そうすることによって、少なからず食改善に貢献することが出来るわけです。
     したがって、豆飯また大いに結構というものですが、いま一歩すすめて、味なしの素炊きか、味うすく炊いた豆だけを、米の代りに食べるならば、より一層よいわけです。生マメの出まわる時節はもとより、乾燥ものも、こうした食べ方にもっともっと利用したいものです。
     もっとも、重曹を入れたものや(折角多いビタミンがこわされる)、どんなものがはいっているかも知れない出来あいの煮豆は感心できませんが。

    いり豆
     エンドウや、ハジケ豆は比較的食べよいが、ふつうのソラマメはなかなか硬くて、うっかりすると、歯の方がまいってしまいそうです。これをポツリポツリとやるのですから、子供たちのお八つには、まさにおあつらい向き。栄養的にも、菓子よりはずっとよいし、歯の鍛錬にもなろうというもの。また、時間がかかるので退屈しのぎにもぐあいがよろしい。
     私の父は、わかい頃、水兵として水雷艇に乗りこみ、日清役にも従軍したのですが、「当番で夜の見張りにつく時など、何よりうれしかったのは郷里から送ってくれた「いり豆」だった」といつもいっていました。そして、慰問袋には、必ず入れるよう指図していました。
     私が中学校の寄宿舎にいた頃、よく送ってくれたのも、やはり、これでしたが、これこそ本当に「ふるさとの味」というものでしょう。今では子供のお八つには全くお菓子ばかり。そして子供の健康をそこなう重大因ともなっているのですが、なんとか、こうした無難なものにもどすことは出来ないものでしょうか。

     
    熱量蛋白質カルシウムB1B2
    エンドウ 莢エンドウ 453.646561.016018013020
    生エンドウ 1026.7191201.8832508015
    仝100+大根葉25 1148.066.5127.52.1583327515537.5
    乾燥もの 33521.7583605.0337201500
    仝100+大根葉100 38426.92483906.4303382045090
    ソラマメ 生ソラマメ 897.0271281.9331507025
    仝100+大根葉25 1018.374.5135.52.2578317514547.5
    乾燥もの 33126.01004405.7505002000
    仝100+大根葉100 38031.22904707.1305060050090
     
    カロリーグラムミリグラムミリグラムミリグラム国際単位ガンマガンマミリグラム




2. タウコギ

     水田の畦道や荒地など、湿地によく見かける雑草。
     秋、枝毎に黄ろい花がつき、一〜二寸の柄の先に、細長い種子、数十本をたばねた穂ができ、熟すと放射状にひらき、先端の逆刺で衣類や毛皮にへばりつく。
     川原などの草むらを歩いたあと、ズボンや外套についたこの種子をとるのに難儀した経験のある方も少くなかろう。未熟な穂も、なげつけるとよくくっつく。
     子供のころ、よくやった戦争ごっこで、これを矢玉に見たてて、敵味方、たがいに投げ合ったものだ。
     タウコギは、田五加木の意で、葉の形がウコギ(五加木)に似ているからだそうだが、本草綱目には、「頭髪を黒くし、老衰せず」と、五加木と同様の不老長寿の効がいわれているからではあるまいか。
     なお、「赤白久痢、小児の大腹痞満、丹毒寒熱に主効(臓器)」、あるいは、「血痢に主効(図終)」とあり、わが民間では、健胃、鎮咳、ことに結核に特効が宣伝されたこともあった。
     成分については、上野金太郎氏(薬誌二四、明三四)によれば、「樹脂やや多量、揮発油少量、臘やや多量、苦味質極少量、粘液質多量、無機塩類(硝石および塩化加里)多量」。
     とあるだけで、特別の有効分はみつからなんだらしい。もちろん食べてよい。「苗葉を採り、炒り熟し油塩に調へ食ふ(救急本草)」で、たいていは、ひたしものにして食ったらしいが、煮物に入れてもよいし、グリーンサラダにしてもよい。
     青汁にもなる。真夏の炎天下にもよく繁るので、夏枯れの野菜不足のばあいの材料として重宝なものの一つだ。(遠藤)




3. トウモロコシ

     医学博士 遠藤 仁郎 

     原産は中米。
     メキシコあたりらしく、土人の間で古くより栽培されており、ミシシッピー流域で、主要の食品になっています。
     コロンブスによって欧州に渡来。
     わが国へは、天正年間にポルトガル人によってもたらされた。
     で、ナンバンキビ(南蛮黍)。略してナンバ。
     トウモロコシは玉蜀黍(タマモロコシ)から。
     米麦に不適の地にもよく育つので、そうした地方の常食になっています。

     熱量は、生で124、乾燥物で353、粉末で365カロリー。
     主なものは澱粉で、脂肪も蛋白質も少く。
     蛋白質は質的にも劣っています。
     それは、大切なアミノ酸のうちリジンの少いのは一般の他の穀物と同じですが、そのほかに、トリプトファンにも乏しいからです。
     ミネラルでは、カルシウムが少く、燐が多い。
     カルシウム:燐の比は、生で1:26、乾で1:58、粉で1:26。
     理想比は1:1〜2ですから、酸性度が甚だつよいわけです。

     ビタミンも一般に乏しく、Aは殆んどなく(もっとも黄色種にはあります)、Cは生のトウモロコシに僅かだけ。

     B1
     生に50、乾300、粉150ガンマ(ミリグラムの千分の1)。
     熱量とB1との関係は(理想比1カロリー対1ガンマ)、乾燥品では理想的(353:300)。
     生では124:50、粉では365:150と、いずれも1カロリー対0.4ガンマで、B1が少い。

     栄養のバランスは、生では同量の、乾燥品では1.5倍の良質ナッパ(たとえば大根葉)で完全になるが、粉では3倍のナッパでも、まだ十分うまくは釣り合いません。
     つまり、栄養的には、生で焼いたり蒸したものがよく、味もよろしい。
     もっとも、繊維がかたくて消化はよくありません。

       病み上り 唐黍でまたすねる (川柳)

     次が乾燥物ですが、これも消化の点では同じです。
     しかし、消化をよくした粉やその製品(コーンフレークなど)は、成分的にはずっと劣っている、というわけです。
     私の郷里では、旧暦の3月3日、桃の節句の日がナンバの種まきの日ときまっていました。
     山の花見から帰ると、みんなで、畑の周囲に、適当の間隔をおいて蒔きつけ、その後の育ちにも気を配ったものです。
     夏になると、頃合いに熟れるのを待ち兼ねて、毎日皮をむいてみたりしました。
     なんでも、トウモロコシの味は、とりたてから卅分もたつと、グッと落ちるということですが、実際、もぎ立てを、そのまま火にくべた香ばしさは、札幌の街で食べた名物のトウモロコシよりも、ずっとおいしかった。
     忘れられぬ故里の味の一つです。

     また、軒につるしてよく乾燥したのを、焙烙にかけると、梅の花のようなかたちに、勢よくはぜてとび出るのを、あらそって頬ばり、舌を焼いたこともあります。
     このハゼナンバをいり小米、いり大豆と、黒砂糖で煉りかためた「オイリ」は、私どもの子供のころの最上の「オ八ツ」でした。
     このオイリは、花見には欠かせぬものでしたし、そのナンバの種子をこの日にまく、ということの因縁めいたものを、子供心にも感じたことも、なつかしい思い出です。

    附記
     さいきん、蛋白質や脂肪の多い優良突然変異種が発見され、研究がすすめられているそうです。これが普及して来れば、ずっとすぐれた主食品になるでしょう。




    熱量 蛋白質 カルシウム B1 B2
    生トウモロコシ 124 3.8 130 0.8 Φ 50 80
    同上+大根葉100 173 9.0 195 160 2.2 3000 150 380 95
    乾トウモロコシ 353 8.2 290 2.3 300 100
    同上+大根葉150 427 16.0 290 335 4.4 4503 450 550 135
    粉末 365 7.8 130 1.5 150 50
    同上+大根葉300 512 23.4 575 220 5.7 9003 450 950 270
    カロリー グラム ミリグラム ミリグラム ミリグラム 国際単位 ガンマ ガンマ ミリグラム
    (注 表の単位 熱量はカロリー。蛋白質はグラム。カルシウム、燐、鉄はミリグラム。ビタミンAは国際単位。B1B2はガンマ。Cはミリグラム。図は理想的と考えられる釣り合いを基準としたもので、ミネラルやビタミンがカロリーや蛋白質の高さにそろうか、それ以上あれば、うまく釣り合っているか、むしろ余裕のあることをしめす。)


    トウモロコシ 生100 + 大根葉100






4. ヒマワリ

     医学博士 遠藤 仁郎 

     中央アメリカの原産。
     夏、太陽にかがやく黄色い大きな花がつき、栄養にとんだ実ができる。
     ペルーの国家。
     アメリカ・カンザス州の州花。
     インディアンの太陽の花。
     インカでは、太陽の表象としてたっとばれ、祭典の間はこの実を食べ、純金製の大きな花が、太陽神につかえる巫女の胸にかざられたという。


       実は炒って食べ、油をしぼり、しぼり滓はすぐれた飼料になる。
       熱量、蛋白質、脂肪ともに多い。
       しかも、この脂肪には、90%以上もの不飽和脂肪酸があり、血液のコレステロールを下げ、動脉硬化を防ぐ効果があるという。
       中国やソ連では、この実をよく食べるが、あのたくましい精力の源になっているらしい。
       つまり、不老強精の効力があるわけだ。

       葉はよい飼料になる。ソ連の畜産は、これによって成功している、といわれているほどだ。
       食用にもなる。
       わか葉はやわらかくて、サラダにしてもよいし、仲々おいしい。
       たけた葉でも揚げ物にすれば結構たべられる。
       茶にしてもよい。


       インジアンは染料にしているそうだ。


       茎からは繊維がとれる。

      薬用
       全草に、解熱、?痰、駆風の効があり、煎用したり、酒に浸して飲んで、リウマチやマラリアによいという。
       青汁にすればなおよいだろう。
       といったぐあいで、ただ観賞用だけに終らすのは、全くのところ勿体ない。
       もっともっとしっかり作って、葉も実も大いに利用すべきだ。

      名のいわれ
       花が太陽に向ってまわる、というのでヒマワリ。
       ギリシャ神話に、クリテイという水の妖精が、日の神アポロに恋い焦れて、9日間、空を仰いで立ちつくした末、花になり、いまもなお、ひねもす日の神のあとを追いつづけているのだとある。
       ただし、太陽の方にむいてはいるが、その進行につれてまわるものではないそうだ。


          熱量  435 カロリー 
         蛋白質  7.8 グラム  
          脂肪 21.0 グラム  
          糖質 52.3 グラム  
       カルシウム  140 ミリグラム
           燐  920 ミリグラム
           鉄  7.5 ミリグラム
       ビ 
       タ 
       ミ 
       ン 
        A    0 
      ミリグラム


       B1    ー 
       B2 0.07 
        C    0 




5. ツワブキ

     医学博士 遠藤 仁郎 

     海岸ちかくに多く自生している。つやつやとした大きな常緑の葉をつけ、秋おそく、黄色い花をつける。
     和漢三才図会に、

     「葉茎をとり、焼淘苦汁を去り蔬とす。その葉は魚毒を解し、河豚魚毒に中る者、生にてくらひ屡、效あり。また、馬に飼ふによし。薊葛の葉に劣らず。九州の人、今も毎日蔬菜となし食ふ」
    民間薬(富士川游)には
      魚毒
       ツワブキの葉を生にてすり汁を多くのむべし(秘方録)。

      河豚毒
       ツワ葉茎とも。右一味、水にて常の如く煎じ用ふべし。
       急なるときは生にてかむべし(和方一万方)。

      鰹毒
       ツワブキの葉を煎じ服す效あり(此君堂薬方)。

      鳥肉毒
       ツワブキの葉を煎じのむべし(秘方録)。

       前田曙山氏によれば、
         昔、鞆の津の辺に、一年、河豚の大漁ありたるが、余の魚と異なりて毒魚といふ事は、当時の人もよく知りたれば、之を売らんにも売り尽されず。
         流石に捨つるは惜しくして、漁夫ども、手料理して舌鼓打ってたいらげたるに、この時の魚には毒強かりけん。
         其所にも此処にも中毒を起して、うめき苦しむ声聞えけり。然るに、或家にて、夫婦と7才の男児とあり。皆、鍋の辺に打ち寄って肝までも食したれど、いささかも中りたる気色なく、昨日に増して健かに、心地も鮮かなれば、夫婦相見て慶びつつも、四隣の惨状見るに忍びず。
         夫婦して介抱に奔走しける中に、夫は、己れ一家の中毒せぬをいぶかり居たるが、いささか心得ある者なりけん。
         偶、海豚鍋にツワブキの軟葉を和して食ひたることを思ひうかべ、若しや此の草に毒消しの效あるにやと、すなわち裏庭に走りて、今を盛りと咲き出てたるを、引き抜き来りて、苦しむ人々に頒ち与え、生ながら噛しめしに、忽ち、烈しく嘔吐を催ほし、腹中の毒を除くと共に、九死に一生を救ひたり。
         これより、この村にては、こぞりてツワブキを栽え、みな陰乾にて貯ふとぞ。」

       生乾にかかわらず、煮て食べてよし、煎じ汁よし、生ならばさらによし、というわけだ。
       もっとも、この解毒能はツワブキに限らず、すべての緑葉に共通の効能のようだ。
       ところで、フグのシーズンは冬だから、折から冬枯れの青物不足の時季だ。そこに常緑のツワブキのあることは、まさに天の配剤の妙とでもいうものだろうか。

       その他、上記の民間薬には、

        痢病
         ツワブキ葉茎とも味噌汁にて食べし。さゆにてせんじ用ふるも又よし
        (経験千方)。
       ともある。
       また腫れ物にもよいとみえ、本朝医談に、

         「葉をあぶりて癰腫につけること民間皆知れり」

       と出ている。
       庭園にもよくみかけるが、ただ観賞用というだけでなく、こうした意味からも、ぜひしっかり植えておきたいものだ。




6. 青玉葱

     玉葱はふつう根、いや、球茎を食べるのだが、私どもはむしろ青玉葱をすすめる。
     青玉葱といっても、まだ玉の出来ぬ前の玉葱のことではなくて、球から出た青い芽。
     春とり入れた玉葱は秋になると自然に芽を出しだす。そうなると、大抵の家では捨ててしまうが、これはまことに勿体ない。
     これを庭の隅か、庭がなければ植木鉢にでも植えておくと、冬の間中、栄養分のつづく限り、次々に芽が出てくる。
     それを摘みとって食べるのだが、折角清潔に出来たものに火をあてるのは、いかにも芸がないから、なるべく生で食べる。
     そのままでもおいしいし、酢味噌、マヨネーズは一層結構。
     ウドン、ソバのくさみにも。飯にかきまぜても、パンにはさんでもよい。




7. 海藻

     医学博士 遠藤 仁郎 

    「本邦、海中産する所の藻苔の類、各所、土地により異品多し。窮知りがたく、枚挙すべからず。凶年には、貧民海草とり食ひ、飢を助くること山蔬にまされり。海草の、民間に利あること亦大なるかな」(大和本草)。
     四面に海をめぐらすわが国、海藻はすこぶる豊富、いわば無尽蔵です。
     昔から食糧不足のばあい、各地で、いわゆる糧物ととして利用されました。
     栄養上では、大体の性質は陸上の緑葉にちかく、主としてミネラル、ビタミンの給源。
     耕地は、長年月の間に、しだいにミネラル分を失って来ており、ために、陸上の作物は、とかく、ミネラル分に欠乏しがちです。
     これに反し、海水には、すべてのミネラルが十分にあり――海水のミネラルは、もと陸地にあったものが溶け出して集まったもの−海草は、人体に必要なすべてのミネラル、ことにカルシウムや鉄やヨードにとんでいます。
     したがって、ビタミンにもとんでいる筈です。
     もっとも、海草の多くは、乾燥したり、塩蔵した貯蔵物なので、その間に失われるものが少くありません。
     なお、近年は、船舶の廃棄物、放射能、あるいは農薬、洗剤、工場廃液などによる海水の汚染をまぬかれぬため、必ずしも、無条件に安心することは出来ないでしょうが、ともかく、良質ナッパに匹敵する、すぐれたミネラル・ビタミン源です。
     海草の利用の多い地方に長寿者の多いことは周知ですが、これは、海草によって、日常食が改善され、バランスのよくとれた完全食となりやすいからに相違ないでしょう。
     また、古くから、甲状腺腫の予防ならびに治療に賞用されているのは、海草がヨードにとんでいるからです。
     駆虫効果もいわれています。これは、マクリのような有効成分が、一般の海草にもあるのかも知れないが、おそらく緑葉と同じく、ビタミン、ことにAにとむこと。
     および、栄養のバランスがうまくとれ、寄生虫感染にたいする体の抵抗力が増すためでもありましょう。

    浅草海苔
     ムラサキノリ、海草の中でもっとも愛好されるもの。
     紅藻類の一種で、やわらかく、食べよいし、風味もよろしい。
     蛋白質にとんでおり、ミネラルことにカルシウムや鉄も多い。
     しかもカルシウムと燐の比もよく、ことに下級品ほどよろしい。
     ビタミンでは、AもB1B2もすばらしく多い。
     もっとも、これは乾燥物についてのことで、ふつうに食べるには、精々2〜3〜5グラムにすぎないので、その中のビタミンは、もちろん大したことではありません。
     注目すべきは、乾物でありながら相当量のCのあることで、これは、生の海苔のビタミン量が、いかに豊富であるかをしめすもの、といってよろしいでしょう。
     ところで、最近の海苔は殆んどが養殖ものばかりですが、その中には、水銀の含量がすごく多いのがあるそうです。
     これは、養殖場が川口にちかい関係上、上流の耕地に、容赦なくまかれる農薬の水銀が流れて来ているためではないでしょうか。
     水俣病や、阿賀野川(新潟県)の水銀中毒事件といい、米の水銀問題といい、ともに無気味なことですが、ほかにも、洗剤や工場廃液による汚染もさけられないのではなかろうか。
     また、色つけしたもの、味つけ海苔や佃煮その他、加工品に用いられている色素や薬剤なども、はなはだ気がかりです。
     岩海苔は、へんぴな海岸の岩に自生しているのを、むしってきて乾かしたもので、養殖ものに比べ、作りが粗く、貝がらのかけらや砂などがついていたりするが、香りも味も一段とよいし、農薬その他の汚染の心配も少い。
     韓国では、ゴマ油に塩を混ぜたものを塗って、コンガリと焼いて食べるということですが、なるほど、これはうまい。歯ぎれがよくて、いくらでも食べられる。
     かみ砕きやすいので、消化の点でもすぐれているでしょう。
     ふつうは、乾燥物を食べるが、海岸では、なるべくとりたての新鮮物を利用すべきです。
     汁の実にもよかろうし、三杯酢もうまいでしょう。
     なお、海苔の食べすぎのための腹痛には醋がよいと昔からいわれています。
     昆布や荒布などを炊くばあいにも、醋を入れるとよいというのと同じ理窟でしょう。

    ワカメ
     海藻類のうちでは比較的やわらかいもの、ミネラル、ことにカルシウムや鉄にとみ、ビタミンも少くない。
     乾燥物でもCのあるのもうれしい。
     産地では生のままもたべられているでしょうが、栄養価の点でもずっとよいにちがいありません。
     乾燥物は、水にもどして、酢味噌にしたり、三杯酢、あるいは汁の実にするが、そのまま火に焙って揉み、ふりかけにしてもおいしい。
     東北では、臼で搗いて細い粉にし、飯に炊く(メノコ飯)。
     惜しいことに、今では、大抵のものが色つけしてあるが、はたして、どんな色がつかってあるのでしょうか。

    コンブ
     古くからなじみ深い海草。
     ヒロメ、ヨロコンブと呼ばれ、不老長寿の効がいわれて、縁起ものにもよろこばれます。
     だしにつかわれることが多いが、なるべくは全体をたべたいもの。
     但し、繊維がかたくて消化はよくないし、うっかりすると色がつけてあり、軟かく味よく加工したものには、どんな添加物がしてあるだろうか、と少からず案じられます。
     アラメ、ヒジキなどと同じく、いずれも乾物。
     乾燥するだけでも、相当の栄養分が失われるだろうし、水にもどすさい溶け出す成分もあることでしょう。
     なるべく純正品をもとめ、調理に注意するとともに自然のまま食べられるもの、軟らかくて特に手を加える必要のない海草を利用したいものです。
     そういうもののうち、よく知られているのは、浅草海苔のほかに、モズク、フノリ、テングサ、アオノリなどがあります。

    モズク
     三杯酢にして酒のさかなにされるが、汁の実にもよろしい。
     コンブ、ワカメと同じ褐藻類ですが、細い管状の藻で、軟かく、少し粘り気があって、いたって食べよい。
     カルシウムがかなり多く、ビタミンはあまり豊富とはいえません。
     ことにAは少く、Cは0。もっとも、これは貯蔵品だからで、生鮮品にはもっと多いのではないでしょうか。

    フノリ
     汁の実にしたり、刺身のツマにしたり、三杯酢で食べるほか、布につける糊にする。
     それで布糊。この辺りにも布糊用のフノリはあったが、食用のはなく、私など、これまで一度も食べたことはなかった。
     先年、矢野先生(米沢出身の京大文学部名誉教授)から、食用フノリをいただき、早速、飯にまぶしたり、汁の実にして食べてみましたが、なかなかおいしい。
     とても軟らかく、汁に入れると、まるで、トロトロに溶けてしまいます。
     消化のよい点では、おそらく海草中随一といってもよいでしょう。

    ツノマタ
     壁土の糊にするツノマタも、同じく食用されます。

    テングサ
     寒天の原料になるものにテングサのほか数種あるようですが、いずれも、生のままでも、乾燥したものでも、利用できます。
     汁の実、刺身のツマ、三杯酢など。オゴノリもその一つ。
     ハワイの土人料理に、生のオゴノリが、生玉葱のスライスとともに添えてありました。
     ちょっと食塩をつけて食べるので。見た目にも見事だし、味も悪くない。
     カルシウムがすばらしく多く、ビタミンではAやや多いが、BやCはモズクと大差なし。

    アオノリ
     緑藻類。乾藻して貯蔵し、カキモチに搗きこんだり、生菓子や煎餅にふりかけてある。
     香りのよい青海苔。飯やおかずにかけてもよいし、汁の実にもなる。
     生は刺身のツマにも、三杯酢にもよいでしょう。
     ミネラル、ビタミン源としてすぐれており、カルシウムも鉄も豊富、ビタミンではAもBも多い(ことにB2)。
     Cも僅ながらある(もっともこれは乾物の成分だから、生乾物には、ずっと多いでしょう)。


    蛋白質 脂肪 糖質 カルシウム B1 B2 水分
    浅草海苔 35.6 0.7 39.6 260 510 12 11000 0.25 1.24 20 11.4
    34.2 0.7 40.5 470 380 23 10000 0.21 1.00 20 11.1
    29.0 0.6 39.1 510 280 36 5600 0.12 0.89 20 13.4
    ワカメ 12.7 1.5 47.8 1300 260 13 140 0.11 0.14 15 16.0
    マコンブ 7.3 1.1 51.9 800 150 430 0.08 0.32 11 14.7
    アラメ 7.5 0.1 50.8 1170 150 12 50 0.02 0.20 19.3
    ヒジキ 5.6 0.8 29.8 1400 56 29 150 0.01 0.20 16.8
    モズク 0.7 0.4 0.6 190 44 70 0.04 0.04 73.9
    オゴノリ 2.3 0.2 11.0 510 12 56 260 0.03 83.5
    アオノリ 20.7 0.3 61.5 600 220 106 960 0.06 0.03 10 3.7
    グラム グラム グラム ミリグラム ミリグラム ミリグラム 国際単位 ミリグラム ミリグラム ミリグラム グラム




8. 松葉

     冬枯れ、夏枯れのナッパ不足の時にも、年中いつでも間に合うのは松葉。
     成分もなかなかよいものらしい。
     牛や山羊などもよく食べる。
     しかし、何分ヤニの強いもので、味はあまりよくはない。
     もっとも、やせた赤土の山の小松の葉は割と食べよく、生でしがんでもよし、青汁にもなる。
     刻んだりすりつぶして飲んでもよし、茶にもなる。

    生葉をかむ
     昔から、毎日松葉をかむとからだによい、という。
     山あるきの時など、しがんでいると、口は乾かず、疲れもなく、まことにぐあいがよい。

    青汁
     水分が少いから、ただすりつぶすだけでは、とても青汁らしいものはとれない。
     よく搗いて、十分水をさして溶かし出すと、いく分の渋味と酸っぱ味はあるが、ちょっとオツな味になる。
     但しヤニが強いと腎臓や肝臓の刺戟になるので、分量には注意が肝要だろう。
     ふつう、生でしがむ1回の適量は、大体、葉を束ねて指の太さくらい、といわれているようだから、青汁にも、そのあたりが無難というものだろうか。
     そのまま飲んでもよいが、古方では酒に漬けてのんでいる。
     たとえば中風に、青松葉四十目、つきただらし、汁を出し、酒一升にひたし、一夜置き、又一夜火のそばにおき、初め茶碗に半分のみ、後に一杯のむべし。
     頭に汗いずれば、大によし(妙薬手引大成)。また、リウマチに、葉の搗汁一升(今の1合)を酒三升(合)に7日浸し、1日3回1合(勺)づつ服す(千金方)。
     といったぐあいだ。もっとも、これらは、青汁というよりは、抽出法というべきだろうが。

    刻んで服む
     きざんだり、すり潰して飲んだり、煎じたり、ねり合わせて服む、というのもある。
     天行温病(流行性熱病)に、細切し、酒で方寸匕(一寸角のサジ)を服す。
     1日三服、よく5年の瘟を辟く(傷寒類要)。
     中風で口がゆがんで2〜3年も癒えぬのに、青松葉五匁、細に刻み、絹袋に入れ、酒5合にて2合半に煎じつめ、松葉を去り、酒ばかり少しづつのむべし(懐中妙薬集)。

    打撲傷に
     生松葉を刻みすりて、酒にてねり合せ、のむべし。
     カスはその疵につけてよし(秘方録)。

    健康長寿法にもなっている(松葉服食法)
     松葉を細切して、更にすり、毎日食前に、酒で二銭(匁)を調へ服す。
     また煮汁で粥をつくって食ふもよし、人をして老いざらしめ、身に緑毛を生じ、身を軽くし、気を益す。久服してやまざれば、穀を断って飢えず、渇せず(聖恵方)

    松葉茶
     生松葉を熱湯でに出した茶もよいだろう。
     もっとも、これでは水に溶ける成分しか出ないから、栄養分としてはビタミンCやB、あるいは若干のミネラルに限られる。
     しかし松葉ことに寒冷時の松葉には、かなり多量のビタミンCがあり、しかも採取の数日後に最高値をしめすという重宝なものだから、とかく野菜不足に陥りがちな冬のC供給源としての意義は少くないわけだ。
     搗きつぶして煮出せば、いっそう有利というものだろう。




9. ヒジキ

    姫路市 H.I. 

     下痢にこの味噌汁がよいといわれる。
     烈公食薬に痢病をうけぬ咒として「6月6日ヒジキを味噌汁にして用ふ。度々食へば尚よからん」とある。




10. カンゾウ(萱草)

     春さき、わかい芽を摘んでヒタシモノにして食べた。
     青汁にももちろんなる。花も食べられるそうだ。
     効用の第一は、何としても、憂いを忘れる、ということらしい。
     本草書には、

       「漬物にして食へば、五臓を安んじ、人をして好んで歓楽して憂なからしめ、身を軽くし、目を明かにす」
      (蘇頌)

     南方全集には、
       「萱草は、その苗を食へば、楽しんで憂ひを忘れるとあって、一名忘憂、又、忘草。
       それから、日本でワスレグサといふ。今昔物語に、紫苑をみれば思ふ事を忘れず。ゆえに嬉しい事があれば紫苑を、憂ひある人は萱草を常にみよ、とある。
       今も、支那人、一種の萱草、ヘメロカンス・グラミネアの花を乾し、夥しく在外支那人へ送るを、茶に煎じて用ひ、金鍼菜と呼ぶ。
       前年米国で調べると、頗る摂生に益ありと分った。その苗を食ふと、少しく酔ふといふから、後家婆さんなどが、憂ひを忘るる便りとなるべく、さてこそ、人の老母を萱堂といふのだらう」
      (南方全集七)

     また本草には、
     「身体煩熱を治す」(大明)とか、
     「湿熱を利す」  (時珍)とあり、
     奇魂には、
     「汁をとって傷寒の病を治す」。

     なお「小便赤渋」によいとあり、
     富士川游編の民間薬にも
       「淋(小便の出にくい病)に
       萱草の葉せんじ用ふ。
       多く用ふべし」
      (経験千方)
     と出ている。
     真夏に赤橙色のうつくしい花が咲く。
     枕草子に、
       「花さはやかに、かさなりさきたる、
       うべうべしき所、せんざいにはよし」
     とあるが、野菜畑にも等しい不風流きわまる私のうちの庭でも、それなりの風情をそえてくれる。




11. ノゲシ

     苦菜。一名ケシアザミ。
     ノゲシというのは、葉のかたちがケシに似ているからの名。
     ケシアザミは、葉がアザミに似ているからだが、刺がなくて、やわらかい。
     葉からも、茎からも、傷つけると白い乳液が出る。

       「苗葉をとり、煤し熟し、
       水に浸し苦味を淘去り、
       油塩に調へ食ふ。
       生にて揉みても、亦食ふべし」
      (救荒本草)

     やや苦味があるといわれているが、私のうちの庭のものは(写真)土がよく肥えているせいか、少しも苦味はなく、サラダにしてもいたって食べよい。
     本草書には、いろいろの効能があげてあるが、一般的なものとして、

       「久服すれば、心を安んじ、気を益し、
       聰察にし、臥すことを少くし、
       身を軽くし、老に耐へる」
      (本経)
     とか、
       「餓寒に耐へ、気を豪にし、老いず」(別録)。
       「力を強くし、冷ではあるが甚だ人を益する」(嘉祐)

     などとあるから、なかなか大したものだ。
     なお、南方全集には、次のような愉快な話がのっている。

       「ノゲシは、今の人食ふことを知らず。煮て苦汁を去り食ふべし、と貝原先生は言った。兎の好く物だ。
       露国の伝説に、魔が上帝に、何かくれ、と望むと、麦も稷もやれぬ。烏麦をやらう、と云った。大悦びで、烏麦、烏麦と呼びながら去った。
       上帝、烏麦を惜しくなり取返したいといふに、ポール尊者、承知の助、と駆け抜て、橋の下で待つと、烏麦と唱へ続けてやって来た。ポール尊者、突然、ワッと驚かすと、何だお前か。上帝がよい物を呉れた。その名を、今のびっくりで忘れたといふ。
       ライで無かったか、大麦でなかったか、と問ふに、否々と答ふ。ノゲシで有たか、と問ふと、其だ、其だ、ノゲシ、ノゲシ、と大切に覚えて行った。以来、魔は後生大事と、この雑草を守っておるといふ」。

    (南方熊楠全集七)




12. ノウゼンハレン

    阿南市 H.M. 

     花はノウゼンカズラ(凌宵花)のようで、葉はハスに似ている(葉蓮)ので、この名がある。
     ふつう、キンレンカ(金蓮花)と称している。
     南方先生は「ノウゼンカヅラ」として、

     「ペルーの原産だが、其ハスの葉様の葉と、兜やうの花を、古欧州の円楯と金兜に見立て、トロペオルス(戟利品)と学名した。
     葉と実を、塩と酢に漬ると、からし漬のやうな味して、中々旨いが、豪的に飯が進むから、叱られる。
     花も西洋料理のケンに使ふ。是も珍草で、夕方に、定期に、その花から電光を出すを、リンネの娘クリスチナが創見した。というから云々。
    (南方全集七)
     と書かれているが、この高名な搏識の先生、なにを思いちがいされたのだろう(それとも、編集者のミスか)この記載は、すべて、ノウゼンハレンのことだ。

     さて、この漬物、(塩と酢の漬物ピックルス)が、豪的に食をすすめる、とあるので、試してみたが、なるほど、ピリット辛味があって、おいしい。
     生で、サラダの薬味にもなる。
     花はなかなか綺麗で、葉っ葉ばかりの殺風景きわまる私ども青汁党の畑に色をそえるには、まことに恰好なもの。
     ところで、このピリッと来る成分は、一種のからし油。
     ベンチール芥子油といい、強力な殺菌作用をもっており、薬用にもされているという。
     化膿菌、大腸菌、結核菌、リッケチア、インフルエンザ・ビールス。また、カンジタ(カビ菌)にも有効。
     胃腸から、よく吸収されるが、血中では、血液成分と結合して、不活性になっていて、殺菌作用はないが、腎臓や肺から排出されるとき遊離されて、尿や呼気、唾液に殺菌力をあたえる。(この葉を20グラムも食べると、尿にその効力があらわれる)。
     だから、腎盂炎や膀胱炎、カゼ、気管支炎や肺炎、また口内炎、扁桃炎などによいわけ。
     サラダにして食べてよし青汁にすればなおよかろうというところだ。
     もっとも、この青汁は、多すぎると胃を刺戟するだろうから、少量を混ぜるのが適当だろう。




13. 水瓜

     医学博士 遠藤 仁郎 

     水瓜のシーズンになった。暑い日ざかり。
     汗をぐっしょりかいて上りつめた峠の茶屋で、谷川からひいた筧の水に冷やした水瓜。
     とても忘れられぬ味だ。
     ところで、厄介なのは、あのおびただしい種子。
     今は、以前にくらべ、ずっと小型になったが、数は、かえって、ふえたのではないか、と思われるほど。
     一々出すのはこまとに面倒。
     そこで、きつい薬をつかった「種子無し水瓜」というものも出来てはいる。
     これを、改良だといい、農業の進歩のたまものだ、と賞讃されているわけだが、要は、科学者のいたずらから生れた奇形児。
     種子がなくなると同時に、果肉の成分にも、何ぞ異常がおこってはいないだろうか。
     気味のよくないことだ。
     それに、おどろいたことに、うまい、うまいとよろこんで食う果肉の成分は、殆んど水に近い貧弱さにくらべ、捨ててかえりみない種子――無くしてしまおうとさえされている種子の成分の、なんと素晴らしいことか。
     もちろん、これは、種子の中の仁のことだが、蛋白質は多いし、脂肪にもとんでいる。
     しかも、この脂肪は、血液コレステロールを、むしろ下げるようにはたらく良質のものだ。
     そして、熱量は大豆よりも多いくらいだ。
     カルシウム・・燐の比は余りよくない(酸性度かつよい)が、鉄にとみ、ビタミンBもかなりある。
     といった栄養食品。
     中華料理には無くてはならぬ不老強精食品。
     だから、これを捨てるのは、まことに勿体ない。
     というわけで、さいきんは種子ごと食べることにしているが、簡単にくだけ、味もかわらぬ(昔の大型の種子は少々食べづらいかも知れないが)。
     そして栄養分は少しもたらぬから、まさに、一石二鳥にも三鳥にもなろうというものだ。
     あえて、水瓜は「種子ごと」とすすめたい。
     葉も食べられる。
     煮ても、生でも、また青汁の材料にも。




14. サボテンはいかが

     医学博士 遠藤 仁郎 

     サボテンを食べる、といったら、たいていの人は、「あのトゲのいっぱいあるやつを?」と、目をまるくされましょう。私自身も、日南海岸、小弥太郎サボテン公園の技師長、渡辺忠夫氏から、初めてうかがったときは、いささかならず驚きました。
     しかし、渡辺氏によると、サボテンには何千種もあって、なかには、古くから食用されているものもあり、その代表的なものは、

    1. コチニールウチワ、または臙脂団扇
    2. イチヂクウチワ、または大ナイヤガラ。
    3. 覇王樹、大型宝剣、竜葉宝剣

     の三種で、これらは、太古の米大陸文化(前史時代)の原住民によって、新芽を蔬菜として食用にするために栽培され、作物化されている。
     今日でも、メキシコなどの野菜市場では、とげをむしりながらサボテンを売っているインジオの姿が、よくみかけられるそうです。果実も食べられ、米国では「刺のある梨」(プリックリーペアー)と称して、一般果実同様にひろく食用されています。
     また、例のメキシコ特産のテキーラ種は、おもには竜舌蘭の汁からですが、サボテンの果実からつくるのもあるとの事です。ただし、食用サボテンの栽培は、原住民の居住する地方だけに限られたもので、サボテンが広く全世界に栽培されるようになったのは、サボテンに寄生するコチニール貝殻虫(エンジ虫)から、赤色染料(エンジ)を採取する。という用途がひらけたためでした。けれども、この用途はアニリン染料の出現によって完全に失われてしまったので、今では、もっぱら観賞用として、僅かに栽培されているにすぎぬ。という状態になっています。
     そこで、渡辺氏は、サボテンの食用作物としての復活を念願され、つくり出されたのだが、サボテン公園名物のピックルスや奈良漬、砂糖煮などです。そして、もっとひろく、食用の一般化ははかれないが、青汁の材料にはどうか。ともかく試食してみてほしいとのことで、昨年の秋私どものところへも送っていただきました。
     大部分はサボテン公園に100万本もあるという大ナイヤガラ種で、中に、バーバンク氏が改良したというトゲナシ種もありました。

    生食  わかい芽なので、見掛けのたくましさ、いかめしさにも拘らず、いたって軟かくて、トゲをとり除くと(タワシでこすると割と楽にとれる)、そのままでも結構食べられます。口あたりは、ちょうどキウリのようですが、ちょっと酸っぱ味があります。そして、かむほどに粘りが出るところは、まるでオクラそっくりです。
    サラダ  適宜の大きさ(長さ2〜3センチ、厚さ2〜3ミリくらい)にきざんで、サラダ油、塩、酢をかけると、一種の風味があって、なかなかオツです。
    青汁  すりおろすと、すごく多量の汁がとれます。しかし、もともと緑色部が少いので(外表のうすい層は濃緑だが、中身の大部分は無色、これもキウリに似ている)、ケールなどの青汁に比べると、ずっと色はうすい。その上、粘りが強いので、いささか飲みづらい憾みがあります。
    漬物
     酢漬け
    (ピックルス)
     適当の大きさにきざんで、軽く塩漬けにし、あとで、ラッキョ漬のように。適当の大きさにたて割りに切ったものを浅漬けにする。貯蔵用には、沢庵漬けなみにながくおき、また、粕漬け、味噌漬けにもする。
    煮物  煮つけにしてよし、汁の実にもよい。いずれも粘りがあって、おいしい。
    粘りの利用  すり下して出来たトロで練れば、粘り気のない粉(米、大麦、キビ、芋の粉など)でもむしパン、流し焼をつくることも出来る。その他、工夫すれば、いくらでも変った食べ方はあるでしょう。
    栄養成分  東京都衛生研究所と国立栄養研究所(ビタミンAだけ)に依頼して出来た分析結果は表のようです。
     おもしろいことに、味が似ているように、成分もキウリとオクラによく似ており、まずは、ちょうどその中間のもの、といったところです。けれども、目立っていることは、サボテンにカルシウムの多いこと(良質緑葉なみ)とカルシウム対燐の比がカルシウムに有利であることです。しかも、このカルシウムは、わが国習慣食にはもっとも不足しているものである点からだけでも、ずっとすぐれているわけですし、サボテンが、農薬に汚染される心配が全然ないという点でも、市販のキウリやオクラよりは、よほどよいわけです。
    栽培  渡辺氏によれば、栽培はいたって簡単で、水のたまるような所をさけ、排水と日当りのよい場所ならば、どこにでも出来るし、肥料として魚の骨、卵の殻、木灰などを元肥として育てれば、驚くほどよく出来る。苗(もぎとった芽)は、切り口に石灰を塗っておくと、挿してすぐつく。ということです。問題は寒冷地の冬季。サボテンといえば砂漠、砂漠といえば炎熱の地が連想されます。しかし、本場メキシコにしても、乾燥地ではあっても、決して、必ずしも炎熱の地とは限らず、相当低温になるところもあるので、かなりの寒さにもよく耐える筈だ、との事です。私の庭でためしてみたところでは(当地の冬は最低で、0下5〜6度まで下る)南向きの軒下では大部分が越冬したが、露地ではほとんどが腐ってしまいました。もっとも、これは、試食用にいただいたわか芽を挿したためであったかも知れません。
    輸送  なんしろ、ああいうゴツいもので、乾燥に強く、遠路の輸送、長期の保存にもよく堪えるので(冬期でも室内におけばながく保存できる)、無理に自家栽培をやらなくても、適地、たとえばサボテン公園のある宮崎県などで、大々的に栽培し、そこからの供給をうければ、年中、どこでも、また何時でも、利用することは出来ます。したがって、夏場はもとより、真冬の北海道、東北、北陸などの多雪地方での青物不足のばあいにも、まことに重宝なもの、といえるわけです。

     なお、いろいろの薬効もいわれています。一つご試作、ご試食はいかがです。そして、なんとか、大いに活用のみちを拓こうじゃありませんか。

     サボテンキウリオクラ 
    熱量17.009.0031.00カロリー
    蛋白質0.600.702.50グラム
    脂肪0.100.100.30
    糖質2.801.405.10
    カルシウム166.0019.0065.00ミリグラム
    10.0027.0048.00
    0.300.301.00
    ビタミンA172.0033.00100.00国際単位
    B10.040.020.08ミリグラム
    B20.040.020.06
    C1.0015.0015.00
    水分94.9096.7089.80 





15. ミョウガ(茗荷)

     医学博士 遠藤 仁郎 

     むかし、ある宿屋に、大金をもった客がとまった。あの財布をおき忘れさそうじゃないか、とたくらんだ欲深の宿の老夫婦。どんどんミョウガの料理を出した。よく朝。部屋にいってみると、これはしたり、忘れていたのは、財布じゃなくて宿賃だった。という笑話がある。
     また食って言訳になるめうが哉という句もある。
     南方全集四に

     「狂言純根草に、釈尊の弟子で、智恵第一の阿難の塚から生た故、蓼を利根草と名け、愚純第一の周利槃特の塚より生た草を純根草と名けたとあり」

     「俗に槃特比丘、大馬鹿で、毎に名を書て荷ひあるいたが、死後、其墓に草を生じ、其を食た人は能く忘る。名を荷ると書いて名荷と名けた」

     「仏教にそんな事は更にみえぬが、文安の頃、すでに名荷と書いた由、下学集にあれば、この字によってあんな談ができたと知る。食へば上せる物ゆえ、人により健忘をも起すだろう」。
     とあるが、あるいは、芽の出るのがおそいこと――もう他の草木には若葉のしげる5月ごろになって、ミョウガはようやく顔をのぞけ出す。
     そのノロマ加減。ふかい繁みのかげに、ひそやかに咲く花蕾の、いやに遠慮気なのも、いかにもうとましげに見える。そんなところから、こうしたウツケ話が生れたのでもあろうか。
     「さりとて無闇に嫌はぬのみか、冥加の意に取って祝事に用ひ、家紋にもされ」
     ているといった、まことにとぼけた草だ。
     ふつう食用されるのは花蕾だが、根も茎も葉も、みな食べられる。子供のころ、母がつくってくれた柏餅には、ミョウガの葉にくるんだのもあり葉ごと食べたが、かわった風味があってなかなかよいものだった。
     何でもすりつぶして飲んでみていた当時、このミョウガの青汁もやってみたが少しドロつくが、特有の香味があり、乙なものだ。
     それに、古方に、
     この青汁を熱病の治療や予防、また薬ののみ過ぎや中毒にもよい、
     とあるのも嬉しい。
     温病の初期、頭痛し、熱甚だ壮なるに檮汁を服す(本草綱目)。
     時疫流行の時のがるる方メウガの根と葉をつき、汁を取り、多く飲みてよし(懐中妙薬集)。
     服薬過剤。及び中毒し、多煩悶、死せんとするに、搗汁一二升を飲む。夏は葉を用ふ(葛氏方)。
     服薬過剤、悶乱するに汁(本草経)。
     この葉にどれほどの栄養分があるのか、こういうものまで調べる物好きの栄養学者もいないとみえ、花蕾の成分は載っていても、葉については、何も書いてない。が、一般の緑葉と、おそらく似よったものだろうし、たとえ飲みすぎても、そうそう大馬鹿になるものでもあるまい。
     いちど植えておけば、毎年、夏の間中は、青々として葉が繁るから、とかく、菜っ葉の不足がちな真夏の青汁の材料の足しになるし、風味のよい花蕾を賞味も出来る。日蔭でもよくそだつので垣根の隅っこにでも植えておきたいものだ。





16. 漬物

     医学博士 遠藤 仁郎 

     香の物、香々は漬物の総名で、今では沢庵漬のことになっているようですが、もともとは、味噌漬大根のことだったそうです。
     名のいわれには、いろいろあり、

      1. むかし味噌のことを「香」といったのて(勾いがたいから)、香の物。
      2. むかし聞香といって香をたいて、それを、かぎわける遊戯があったが、その際、嗅覚の疲れをいやすために、これを食べたので香のもの。
      3. あるいは、食後に食べて、口中の臭気を消したので香のもの、

     といった。
     そこで、香の物は食事の途中には手をつけず、最後に茶をのむときに食うのが古来のしきたりなんだそうです。
     しかし、一般庶民、ことに農家では、日常食に漬物の占める位置は相当に大きくて、副食の殆んどを、これに依存するという場合が少くありませんでした。
     ところで漬物は、本来、食物の貯蔵の目的に出たものであり、塩分がつよい(うす塩もので2〜3%、ふつうは5〜6%、甚しくは9〜10%)。
     ために、少量の漬物で主食をうんと食うという、甚しい偏食のもとになるし、漬物を大量に摂ろうとすれば、たとえそれが良質菜っ葉であって、栄養のバランスは幾分よくなるとしても、甚しい食塩の食べすぎになります。
     いずれにしても、栄養上香ばしからぬ結果をまねくわけで、このことは従来からも喧しくいわれていました。
     けれども今日では、さらに別の、ゆるがせに出来ぬ問題が加わって来ています。
     というのは、元来、農家の自家製品であり、しかも安全良質であった漬物が、今では、殆んど食品業者の手にうつり、色素、人工甘味、防腐剤など、有害あるいは有毒であるかも知れない各種添加物が混入されているからです(農薬汚染があってならないことも勿論)。

    沢庵
     漬物の代表ともいうべきものは沢庵でしょうが、市販品のあのあくどい色と味はどうです。
     むかしの農家でつくっていた本漬け糠漬けは、本当に、何ともいえずおいしかった。
     高校時代(もう50年もまえだが)、別府で療養していた友人を見舞ったあと大分から、3日がかりで外輪山をこえて阿蘇谷へ下ったことがあります。
     その途中の田舎宿(何という所だったか思い出せない)で、お茶うけに出された沢庵。
     色といい、香りといい、味といい、実にすばらしかった。
     今ではもう、ああした純粋な漬物の味は、おそらくないのではないでしょうか。
     漬物の出来栄えを主婦の誇としていた農家でさえ、色をつけ、人工甘味を入れています。
     まして、一般市販の沢庵と来ては、全くもってお話しになりません。
     その上、糠は糠で、もとは、米の糠で、失われた成分をいくらか補う意味もあるといわれたものですが、今は農薬の水銀や砒素が気にもなるという始末です。

    粕漬
     奈良漬のあの美しい色。
     あれは、少くとも3〜5年はかからねば出ぬものです。
     それが、なんと、瓜や茄子の時節が来ると、いちはやく立派に色づけされて店頭に姿をあらわします。
     それに、我慢のならぬある甘さ。

    味噌漬
     香のものの元祖だという味噌漬また同じ。三年味噌、五年味噌、十年味噌と、むかしはながくねかした味噌ほど珍重され、それに漬けたのですから、色あいも、香りも、味も実にすばらしい、正に無類のものでした。
     今では、味噌そのものが速成品になってしまったので、こうした本物の味噌漬が、そうざらにあろう筈がないのに、どこの店にも、まこといい色をした(色づけした)のが並べられています。
     もちろん、特有のあの香りもなければ、味はひどく甘ったるいものになってしまっています。

    福神漬
     大根、蓮根、牛蒡などの醤油漬ですが、これまた、純粋のものでは、あの色が出るまでには相当の時日がかかるもの。
     ふつうの市販品の殆んどは、色づけし、人工甘味で味つけしたものばかりです。
     ですから、一般に漬物は香の物の本義にかえって、食後の口なおしに少量を食べるのが精々のところで、副食物として大量にたべるものは、ごくうす塩のもの以外は問題だし、人工甘味の甘ったるいものでは、さらに、その口なおしが必要、といったぐあいです。
     ともかく、現在のところ一般市販品の中には、安心して食べられるものは、まず無いので、むかしながらの純粋の、しかも美味しい漬物を食べるには、少々手数でも自分でつくるほかありません。
     その際気をつけねばならぬことは、

      1. 材料が安全でなければならぬこと。
        つまり、下肥や農薬で汚染されてない清浄、無毒性のものでなければならぬこと。
      2. 良質でなければならぬこと。
        つまり、食後の香の物の意味であれば、野菜果物のどれでもよいわけですが、栄養の補給が目的の副食にするのであれば、なるべくミネラル・ビタミンにとむ良質菜の葉、あるいは海藻でなければならず、また、なるべくうす塩漬けでなければなりません。

     この意味では、飛騨の酸菜漬という塩なしの漬物(大根の葉を温い湯に浸して、塩なしで桶に入れ、重石をのせておく)は、もっとも合理的なものといってよいでしょう。





17. アザミ

     医学博士 遠藤 仁郎 

     旧約創生紀に、上帝アダムが禁果を食べたのを怒り、呪って、「汝は一生の間労苦しみて其(土)より食を得ん。土は莉棘と薊とを汝のために生ずべし」とある。あのトゲのきつい葉は恐ろしげだが、春にはわかい芽を摘んで食べたし、たしか正月7日の七草粥にも入れた。ゴボウのような長い根は粕漬けにもした。ムンムンする陽炎の立つ初夏の野辺で、美しい紅い花をつみ、掌をかるく叩いて、「牛出え馬出え」と小さい虫のとび出るのを面白がった。病気した牛に食わすために、鎌を片手に、おやじに連れられて籠一杯とって来たこともある。

     本草書には、

    • 人体を肥健ならしむ(別録)、
    • 精を養ひ血を保つ(仝)、
    • 宿血を破り新血を生ず(蔵器)。
    • 菜として食へば風熱を除く。
      夏季に熱煩して止まぬには
      擣汁半升を服すれば立ろにいえる。(孟セン)
    • 苗は煩熱を去る。生を研りて汁を服す(大明)、
    • 浙東の人、清明節(春分後15日)に嫩者を争ひとり生にて食う。
      以て一年痘瘡出でずとなす(食医要編)。
    • 腸癰(化膿性虫垂炎)を治す(大明)。

     毒虫や蛇咬によい。
     酒に擂り服し、外部にぬる。
     癬瘡の痒きに刺薊の葉の搗汁(千金方)。

     つまり、強壮、浄血、解熱、感染にたいする抵抗力、化膿症、中毒、皮膚病などによい。
     また、各種の出血、外傷の出血、衂血、吐血、下血、痔出血、子宮出血などに生のしぼり汁。
     痔瘻や淋(尿頻数)、石淋(膀胱結石)、婦人帯下、安胎を主る。
     などといったぐあい。
     要するに緑葉食、青汁一般の効で、その他のどんな場合にもよいわけだ。食用にはふつう春さきのわかい芽に限られるが、青汁にすれば、刺の強いものも安心して用いられる。かなり大きい葉であるだけに青汁材料としての利用価値も大きい。




18. カラスムギ

     そこいらの道傍にいくらでもある雑草。どんな荒地にでも出来るので、ほかに何も出来ぬ痩畑とか、開こんしたての畑につくる。
     全粒オートミール 
    熱量      313   369カロリー
    蛋白質    13.0  13.5グラム
    脂肪      5.4   4.8 〃
    糖質     55.5  67.3 〃
    カルシウム    55    30ミリグラム
    燐       320   360 〃
    鉄       4.6   3.4 〃
    ビタミンA     0     0 
       B1   300   200ガンマ
       B2   100    80 〃
       C      0     0 
     ふつう家畜の飼料にされるが、荒凶時には食糧にあてられた。
     食用に初めて用いられたのは北部アルプス地方だったようだが、北欧、ことにスコットランドでは、広く食用されている。
     製品の主なものはオートミール。成分的にはなかなか優秀。蛋白質が多く質的にもよい。脂肪も多いし、カルシウムも比較的多い。ビタミンB1B2にもとんでいる。
     つまり、穀物のうちでは、おそらく、もっともすぐれたものではないか、といわれている。
     消化のよいオートミールが、老人や病人にすすめられているのも、そうしたところに謂れがあるのだろう。
     もっとも、カルシウムや鉄、ビタミンBは全粒よりはかなり減ってはいるが。




19. ヒルガオ


    「嫩苗葉をとり、たき熟し水に浸し淘浄し、油塩に調へ食ふ」
    (救荒本草)
     また、
    「つけものにもすべし」
    (救荒本草抜萃)
     とか、
    「日に干して食ふべし」
    (大和本草)
     などともある。
     が、備荒草本図には、
    「但し毎日連ては食ふべからず」
     とあるそうだが、それは何故だろうか。
     和漢薬考には、
    「茎葉花根利尿薬とす。
    甘滑微苦。
    気を益し、小便を利す。
    久服筋骨を続き、
    金瘡を合す。」
     戦後の窮迫当時、学会でも、
    「血糖を下げ糖尿病によい」
     という報告があった。
     もっとも、これは、すべての緑葉に共通した効能ではあるが。
     夏枯れの、野菜の欠乏時にも、この草はよく繁るから、青汁の材料にも、また青菜の代用としても利用価値は少くない。




20. パセリ

     医学博士 遠藤 仁郎 

     西洋料理にはつきもの。
     ビタミンにも、ミネラルに富み、成分は非常によい。私どもが特級品に数えている3種のうちの1つ。
     あとの2種はシソとニンジン葉なのだが、これらはともに刺身のつまに無くてはならぬもの。
     パセリが肉の多い西洋料理に、シソやニンジン葉が刺身に添えられるということの事実は、それらによって、肉や魚の毒を消そうというので、そのいずれもが、素晴しい良質緑葉ばかりであるという経験の正しさには、ただただ驚嘆するのほかはない。
     パセリは、紀元前数世紀、ローマ・ギリシャ時代から人口に膾炙しており、宴席にかざり、ソースやサラダに欠くべからざるものであったし、酒の異臭を消し酔を防ぐために用いられた。
     また、オリンピックの優勝者の頭冠にこれを飾ったこともあるという。
     香味料と同時に蔬菜であり、生葉を食べると、血色がよくなり、脳精をつよめ、強心、催眠、通便、利尿の効があるといわれた。
     西欧では、パセリに魔除けの効があるといわれているそうだが、おそらく、これに親しんでいれば――ということは、よく食べるということだろうが――どんな魔物(病魔をくるめて)からも守られることを示しているのだろう。
     大いに利用したいものだが、大抵のばあい、ほかの料理は食べてもパセリだけは残されている。
     せっかく、大切な成分を十分にもったパセリ、さぞかし、ひそかに悔し泣きしていることだろう。
     大昔はもっと沢山につけ、うんと食べたのではないかと思うが、今では全くのアクセサリー。食べるのは行儀が悪いようにさえ考えられているようだ。
     なるべく生食すべきだが、十分たけた葉は、少々かた過ぎ、ちょっと食べづらい。
     揚げるのもよかろうが、むしろ、細かくきざんで生のまま利用すべきだ。
     スープや味噌汁に入れたり、おかずに振りかける。
     飯に直接まぶしてもよい(パセリ飯)。
     コロッケやマッシュポテト、キントンにも十分混ぜる。
     小麦粉、ソバ粉、キナ粉、イモ粉、マメ粉などの粉食料理にもうんと入れる
     もちろん青汁にもなる。
     私ども青汁党のものが旅に出ると、困るのは、どこにも安心して食べられる青ナッパのないことだ。
     この際、都合のよいのはこのパセリ。
     しばらくならばビニール袋で携行できるし、どこの料理店にも旅館にも、必ずあるから、注文すれば、いくらでも出してくれる。
     百貨店の清浄野菜コーナーで求めることも出来る。
     乞食のようだが、会食の時、人の残しているのを集めて持ち帰ってもよいわけだ。
     栽培はやさしく、素人にもらくに立派につくれる。
     春と秋にまくと、年中利用でき、種子もとれる。
     虫の害の少いのもありがたい。
     アパート暮しでも、箱、植木鉢で結構つくれるから、ぜひ植えておきたいものだ。




21. カヤ(榧)の実

     医学博士 遠藤 仁郎 

     カヤの実は南京豆そっくりで、味もよく似ている。
     生でも食べられ、炒ればこうばしい。
     お八つによし、酒のつまみによし。
     本草書には、「穀を消し、筋骨を助け、営衛をめぐらし、目を明にし、身を軽くし、人をしてよく食せしむ」とか、「陽道を助ける」(生々編)など、消化・強壮・強精効果がいわれており、正月の篷筴に供えて縁起を祝うのも、そのためだろう。
     食品成分表(3訂)によると、

       熱量は612カロリーとかなり高く、  蛋白質12・2グラム、  脂肪58・3グラム、  糖質15・5グラムで、
     蛋白質や脂肪にとんている。しかも、この脂肪は、パルミチン、ステアリン約9%にたいし、オレイン19%、リノリンあるいはその異性体が72%もあって、血液中のコレステロールをへらす働きのある不飽和脂肪酸にとんでいる。
     ミネラルでは、カルシウム9ミリグラムだけで、燐や鉄は記載がないので、詳しいことはうかがえない。
     またビタミンでは、
       A  40国際単位、
       B1 40ガンマ、
       B2 110ガンマ、
       C  7ミリグラムで、
     B2はやや多いが、Aはごく僅かだけだし、B1も少い。
     なお、「寸白を療ず」とあって、クルミや南瓜子と同様サナダムシを出す効能があるらしい。
     「多食すれば腸を滑する、五痔の人によろし」(宗爽)というのは、脂肪にとみ、通じがよくなるからだろう。もっとも、また、「多食しても病を発せぬ」で、いくら食っても大丈夫だ、ともある。(遠藤)




22. 菊

     医学博士 遠藤 仁郎 

     花にも葉にも不老延命の効がいわれている。むかし、南陽県の山の中に甘谷というところがあり、両岸に甘菊がしげっていた。その露のしたたった流れを汲む人々は、140〜150才も生き、なおかくしゃくとしていた、という。
     わが国にも、似た話がある。
     風土記に、甲斐の国、鶴の都、菊花山あり。流るる水菊を洗ふ。その水を飲めば、人の寿鶴の如し云々。
     また、柳田先生の遠野物語によれば、遠野から釜石へ越えるところに仙人峠がある。「この山に一人の仙人が棲んで居た。菊の花を愛したと言って、今でも、こんな山の中に残って咲いて居るのを見ることがある。これを見附けて食べた者は長生するといふことである。」という。

     「キク」の名は「きわまる」の意で、この後にはもう咲く花がないからだそうだ。「サキナ」(幸菜)とか、千代見草、齢草など、縁起のよい名がついているのは不老長生にちなんだもの。
     今朝みればさながら霜をいただきて翁さびゆく白菊の花
     この歌から翁草という名も出たという。
     本草綱目、菊の葉の項には、苦、平、無毒。久服血気を利し、身を軽くし、老衰にたへ、天年を延べる。
     烈公食薬には、菊の芽並花とも却老延年の薬なり。うてなも煮附にして用ふべし。菊の萼を煮て、二三度湯を流し、苦味程よく去りたる時、美淋醤油にて煮、常に食の菜に用ひ良。葉も製すべし、右は髪を濃くし、気根をよくするの效あり。疔や癰によい。
     本草に、丁腫死に垂んたるに、葉の擣汁を服せば活く、神験の方。(肘後方)ものあたりや吐潟にしぼり汁。
     民間薬(富士川游)に、獣肉毒、物あたりに、菊の葉を塩にてもみ、しぼり汁をのむべし。直に吐くなり。その後、黒豆をせんじ用ふべし。(掌中妙薬集)
     霍乱(急性吐潟)、菊の葉を塩にてもみ、しぼり汁をのむべし。治すること妙なり。(仝上)痙攣にもよい。乳不足、苗菊を薬種にとり、少し是を水にて煎じ置て、度々のみてよし。乳出ること妙なり。
     その他、頭眩(めまい)や死肌(肌色のよくないもの)、肝気不足(元気の衰え)、腰痛にもよいし、「目のくもりを去る」、腸胃を安んじ、四肢を調へる」によいなどともある。
     いずれも青汁共通の効。

     食用
     「葉は生のもの熟せるもの、いずれも食ってよし」(本草綱目)なんだが、ふつうの菊はにが味があり、匂いがつよくて、そのままでは、薬味に少々添える程度が精々というところ。よくゆがくか揚げ物にでもせぬと、とても十分には食べにくい。
     茶にもする(菊茶)。大和本草によれば、「菊の葉を乾して茶とし服す。色も香も好し」と中華の行厨集という書にあるそうだ。
     なお、甘菊、料理菊というのがあり、花はともに苦味がなく食べよいそうだから、作っておきたいものだ。観賞用の菊で注意せねばならぬことは、危険な農薬がつかわれているかも知れないこと。したがって、うかつに食べてはならぬということだろうか。




23. ミカン

     医学博士 遠藤 仁郎 

     ふつう、袋の中身だけを食べる。しかし、外皮の内側の白い部分にはペクチン(ゼラチン様の粘液質で、果汁がゼリーに凝るもと)が多く含まれている。
     ペクチンには、血液の凝固をはやめる作用があるので、ミカンの皮で傷口をおさえると血がよくとまる。もちろん食べても有効。
     その上、有難いことに、このペクチンには、血液中のコレステロールを下げる作用がある(コレステロールの吸収を妨げるらしい)。したがって、動脉硬化を防ぐ効能があるわけだ。だから、ミカンは出来れば外皮ごと、あるいは、せめて袋についたスジだけでも、つけたままを食うべきだ(いかにも行儀はよろしくないが)。
     もっとも、今では、乱用されている農薬の残留の問題、ならびに収獲後の被覆処理につかわれるパラフィンの純度に問題があるかも知れない(精製不十分な粗製パラフィンには発癌性がある)ので、安心して皮ごと食べられないのはいかにも残念なことだ。
     ナツミカン、ハッサク、イヨカン、ジャボンなどの、あの分厚い外皮は、ぜひ何とかうまく利用したいものだ。これとて、農薬や被覆剤に心配さえなければの話だが。




24. もやし

     大麦、小麦、カラスムギ、キビ、コウリヤン、大豆、小豆、緑豆(文豆)などを、水または微温湯にひたし、あるいは厚蒔きして、発芽させたもの。
     蛋白質や糖質が消化しやすくなるだけでなく(発芽のため消費され、かなり少くなっている)、原料の穀や豆にはないビタミンCも出来る。
     熱量蛋白質脂肪糖質カルシ
    ウム
    B1B2
    緑豆33323.01.754.7753906.0330.500.24
    同もやし16280.11.310522.00.150.0630
    大豆39234.317.526.71904707.00.500.20
    同もやし183.00.12.215362.00.150.0625
     適当な温度さえあれば、いつでもどこでもつくることが出来るので野菜の欠乏する冬期、または酷寒地でのC源として、甚だ重宝なものだ。
     楠正成は籠城中の野菜不足を、この「もやし」で凌いだということだ。
     日露役に、難攻不落を誇った旅順が降伏を余儀なくされたのは、野菜欠乏の結果、壊血病が多発したためだったが、あの時、露軍の倉庫には多量の穀物や豆があったそうだ。
     もし、露軍に「もやし」の知識があったら、あの旅順も、ああうまくは行かなかったろう、といわれている。
     ところで、ふつうは密室内でつくるので、「もやし」の栄養価は、白色菜なみの貧弱なものにしかすぎない。
     しかし、日光にあてると緑色となり(緑もやし)、ビタミンA、その他もできる。
     つまり緑菜になるわけで、それだけに栄養価も、ぐんと上って来る。
     スコットランドでは、カラスムギを常食し、カラスムギの「緑もやし」を愛用するそうだが、このことは、スコットランド人の強健さと、おそらく無関係ではあるまい。
     それにひきかえ、わが国では、愚かなことにも、もともと白い「もやし」を、わざわざ漂白までして、いっそう栄養価を減らして食べているという始末だ。




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