健康と青汁タイトル小
 農薬の害インデックス

農薬の害(1)
農薬の害(2)

農薬の害(3)



1. 總会紀念講演要旨 農薬の被害について

     梁瀬 義亮 

    緒論

     医学の発達が謳歌される昨今、都会と云わず、農村といわず、肝臓病・腎臓病・精神病・ノイローゼ・胃腸疾患・白血病・癌、等々の病気はますます増加し、また原因不明の自殺・交通事故・犯罪・心身耗弱等が多い。ことに農村に於て、原因不明の、あるいはごく些細なことからの自殺や健康な筈の農村青壮年の訳の分らぬ心身耗弱が大へん多い。私は奈良県五条市の一開業医であるが、此等の最大原因の一つが、日々の食物生産に用いられている農薬による慢性中毒によるものであり、国民健康の危機が近いことを知り、憂慮にたえず、微力を捧げて解決に努力している。


 

五条市に於ける集団パラチオン中毒事件

     昭和33年夏頃より、五条市内に奇妙な患者が多発した。すなわち肝炎症状・脳神経症状・口唇炎・舌炎・歯齦炎・胃腸カタル等の諸症候を種々の組合せで併発する患者群である。同時に小鳥が脳神経傷害を起して死亡することが市内各所で起った。
     私は色々原因を探索し、ついに野菜に原因のあることを発見し、周辺野菜生産地をしらべ、パラチオン(ホリドール)が、無謀にも、殺虫用よりはむしろ新鮮度保持のために用いられていることを発見した(すなわち出荷前日に1500乃至2000倍のパラチオン液にひたしたり、又は溶液を散布すると、野菜の新鮮度が保たれ、市場価値が上ると云うのでさかんに用いられた)。
     私はこれによって得た知識をもとに、農民を観察し農村で用いている農薬とその使用状況をしらべているうちに、生産者にも消費者にも、パラチオンのみならず、他の様々の農薬による慢性中毒が極めて多い事実に気付いた。


 
農民に現存の如き農薬を使用させることは間違い

     元来劇毒薬は医師・歯科医師・薬剤師等、専門の教育を受けたもののみが用うべきもので、一般の人が用うべきでない。しかるに、数滴で人間を殺すような猛毒を、薬学の知識のない農民に、しかも食料生産に用いさせ、尚その上、それらの多くは深達剤ないし浸透剤といって、植物の根・葉・果実・花等、全体に滲みわたり、10日ないし2ヶ月位植物体内にとどまって、その期間は人工的有毒植物となっているのであるから、これでは、事故が起るのも当然である。
     事実、農民間にパラチオン(このものには、指導員の指導による集団防除以外は用いられぬ、と云う規則が有るが、実際は個人使用・個人保管・不正使用が行われている)・エンドリン・EPN・ニッカリン・フッソール等によって、事故・犯罪・自殺等が多く起っている。慢性中毒に至っては、更に驚くべき広範囲に起っている。


 
現在使用されている主な農薬

     現在市販されている農薬には次の2種類がある。

    1. 接触剤・・・天然殺虫剤‐除虫菊、デリス粉等でこれを植物に散布すると表面にのみとどまって、体内へ滲入せず、従って洗い落せるものである。
    2. 深達剤および浸透剤・・・これ等は植物に散布されると植物体内全般に行きわたり、一定期間は植物体内に残留し(残効期間と云う)、殺虫・殺菌・殺ダニ効果を示す。


 
残効期間

     植物に散布された深達性あるいは浸透性農薬の残効期間については、いろいろ異ったデーターが出されている。同一農薬でも、散布される植物の種類、農薬の濃度、天候・季節等によっても異るものと考えられるが、一般に云われているよりずっとながいように思われる。
     これについては十分な研究が必要であると同時に、その農薬が検出されなくなっても、その分解産物に有毒なものが出来ないかを研究する必要がある。
     例えばパラチオンは、体内で分解されてパロクリンとなって毒性が増加し、ペストックスはそれ自身は無毒であるが、肝等で酸化されて始めて毒性を発揮する如く自然界に於ても、このような分解産物が出来ないかを研究する必要がある。パラチオン散布後4日目の水田に農婦が入ってはげしい中毒を起したにもかかわらず田の水よりパラチオンが検出されない事があった。


 
何故慢性中毒が看過されたか

     戦后さかんに用いられるようになった農薬の中で、最も人体への影響の注意されたのは有機燐剤である。有機燐剤中毒の時には、血中コリンエステラーゼ値が下る。これが、中毒の唯一の指標とされ、その下降があれば中毒状態であり、その値が恢復すれば中毒より恢復したとみなされていた。相当激しい中毒でも、大体1ヶ月を経れば血中コリンエステラーゼ値は恢復するし、ごく微量の有機燐剤を連続与えても血中コリンエステラーゼ値が下らない。従って有機燐剤の蓄積作用はない。急性中毒も、重症のものでも2ヶ月も経てば恢復する、と断じられて、それ以後の訴えは、専らノイローゼとされた。
     しかし多くの患者の経験より、私のいいたいことは、血中コリンエステラーゼ値低下は有機燐剤中毒の時の一つの症状にすぎず、燐剤は、此れ以外にも、脳細胞・神経細胞・肝細胞・造血器等に破壊的変性的な変化を与える。従ってコリンエステラーゼ値のみで中毒があるとか無いとか、あるいは恢復したとか、せぬとかいうのは誤りである。
     パラチオン散布中に急性中毒を起して倒れた農民が、2ヶ月はおろか、2年も精神病者同様であったり、あるいは精神的肉体的に、7年たってもなお荒廃状態にあり、ぶらぶらしている例は多くある。又ごく微量のパラチオン含有の野菜果実を連続摂取して徐々に慢性中毒に陥った例も多い。
     ごく微量といえども、連続的に永く摂取されるときは、細胞の生活に重大な障害を与えるのである。1回量・1日量と共に、総量が問題になるこのことが等閑に附されていた。以上の理由で農薬の慢性中毒が看過されていた。


 
大久野島の例

     大久野島は広島県竹原市忠海町の沖合の島で、旧陸軍の毒ガス製造工場があり毒ガス島と云われていた。戦時中1400〜1500人が毒ガス製造に従事していたが、微量の洩れて来るガスを呼吸していたため、多くの死亡者を出した。
     戦後工場は撤去されたが、生き残った従業員より、肺臓癌・腎臓癌・咽頭癌・慢性気管枝炎の患者が多く出て、問題となった。戦后わかっているだけでも、すでに200名が死亡しており、昭和36年7月31日現在わかっている生存者669名中(女208人)の中、約4割の268名は廃人同様で、労働不能である。パラチオンを始め、多くの農薬は毒ガスあるいは毒ガス類似のものである。此等毒ガスの霧の中に立って、不完全な防禦装備で作業する農民、日々その微量を食物と共に食べている消費者の将来を、この毒ガス島の実例が暗示している。


 
農薬使用の現況

     化学肥料と農薬を二大支柱とした現在の農法は、数量的増産のみを考えて、人間の健康と生命を無視した『死の農法』である。
     化学肥料は一時的に作物を大きくはするが土壌を悪くする。すなわち、物理的には団粒組織を単粒組織にして土を硬くし、含気・含水・保温力を低下する。化学的には各元素間のバランスを悪くする。
     例えば硫安・過燐酸石灰・塩化カリ・硫酸カリ等酸根を有するものは、土中のカルシウム・マグネシウム・マンガン・カリ・亜鉛等を流出せしめ又カルシウムを施すとカリーが流失しまたカリーを入れると亜鉛・マンガン等を流失せしめる等々。また土中のバクテリアは植物の生活に極めて大切であるが、化学肥料は土中の有効微生物を減少せしめる。
     かく土壌の性質が悪くなるので出来て来る植物は形ばかり大きくても味が悪く病虫害をうけ易い。そこで農薬を用いる。農薬は害虫も殺すが、同時に益虫も殺す。しかも益虫(天敵)の方が農薬に対する抵抗力が弱い。従って天敵がなくなる。他方害虫は農薬に対して抵抗力があり、徐々にその力を増す。天敵がいないので、害虫は我が世の春とばかりに繁殖する。
     例えば田の蜘蛛は、1アール当り大体6〜7万匹もおり、1日に20〜21万匹の虫をたべる。この蜘蛛は農薬に極めて弱い。で蜘蛛がいなくなり、螟虫やウンカは妨害なく繁殖することが出来る。又鳥類・魚類・土中の微生物も減少する。農薬に含有される様々の元素が土中に蓄積して土地の物理的・化学的性質を悪くする。従ってそこに生育する植物はいよいよ病弱となる。病虫害はますます多く現われ、更に強力な農薬を必要となる。
     かくして、この悪循環は、生産者・消費者の幸福と健康と生命をおびやかすのである。このような理由で、農民はますます強力なる農薬を大量かつ濃度大に用い、これに応じて天敵はますます減少し、害虫は抵抗力を増大する。この10年間、農薬を用いて、害虫はかえって増加した。かくて、米穀・蔬菜・果実等、現在市販の農作物で、農薬の用いられてないものは無いといっても過言でなく、しかも農薬の残存しているものも相当出荷されている。かくして農民は直接農薬の侵襲をうけ、消費者は毎日毎日微量の農薬を食物と共に食べ除々に健康を蝕まれてゆく。


 
パラチオン(ホリドール)

     パラチオンは第二次大戦中ドイツでつくられた強力なる神経毒ガスに若干の改良を加えたもので、数滴でよく人を殺す猛毒である。
     植物には1000ないし2000倍液を用いるが、これを散布すると植物体内全般に深達し、約3週間残留する。この残効期間21日というのも、天候・植物の種類等により、もっと永くなる場合も、短くなる場合もある。
     パラチオンは口から、皮膚から、また呼吸により人体に入り、脳神経・肝臓・消化器・内分泌・造血器等に、機能的あるいは組織学的の変化を起す。急性中毒の時は主として、コリンエステラーゼ障害による急性神経障害により、頭痛・眩暈・嘔吐・腹痛・下痢・痙攣・失神・死亡等来す。
     慢性中毒については、前述の如く、従来、中毒量以下の微量のパラチオンが連続体内に入っても、積蓄作用あるいは其他の障害はないように考えられていたが、この場合でも、連続人体内に入ると徐々に全身のあらゆる器官をおかし、人体は荒廃する。


 
其他の農薬

     パラチオンには販売使用に一定の制限規則が有るが、其他の猛毒性の浸透剤あるいは深達剤は自由に販売され使用されている。
     その上多くの農民は、これ等が人畜無害と誤認している。これ等の農薬の急性中毒・慢性中毒は、パラチオンとよく似た症状を呈し、使用量が多いだけにその中毒例も多い。



EPN

     EPNは有機燐剤で、毒性はパラチオンの約1/4〜1/5 残効期間は約1ヶ月位。



エンドリン

     エンドリンは有機塩素性農薬で、その毒性はパラチオンの1/2。残効期間は大体40日。この猛毒の深達剤が、一般に、無毒農薬と誤信され、あらゆる野菜・果実等に使用されて、多くの被害者を出している。



フエーンカプトン

     フエーンカプトンは低毒性有機燐剤として、大して恐れられず、殺ダニ用として果樹・西瓜等に用いられる。この中毒例はパラチオンに似ているが、症状は軽い。深達性があり、残効期間は2週間位。西瓜等では散布後日ならず収穫する例が有り、危険である。



PCP

     PCPは塩素系の化合物で、近頃除草剤として用いられている。毒性は低いようにいわれるが、仲々の猛毒である。泰国のバンコックで、荷おろし中24名が包装の不十分からPCPを浴び、全員肝・神経障害を起し、その中6名死亡したと云う。日本でも死亡例が有る。最近は米だけでなく、蔬菜・玉ねぎ・薯類等にも用いられるので注意を要する。



フツソール

     フツソールは弗素の化合物で、最近は梨・みかん等によく用いられる。毒性はパラチオンの1/5であるが、残効期間が大変永い。浸透剤ゆえ、消費者の被害が大きくなる可能性が大きい。成書には散布後1ヶ月経つと無害と書いてあるが、もっと永い様に思われる。



有機水銀剤

     水銀剤は年々多く使用されつつある。米に、野菜・果実等に、5万トン位用いられる。米作には稲熱病の予防と治療に用いられ、キウリ・トマト等には、ボルドー液に混じて、3日にあげず散布されている。酢酸フエニール水銀として用いられるが、このものは深達性と残効性が有る。岡山大学の小林純教授の実験によれば、すでに白米に最高1PPm(百万分の1)玄米で5PPmの水銀が検出された由である。なお酢酸フエニール水銀は避妊のゼリーに用いられている。時々副作用を聞くので注意を要す。水俣病(熊本県水俣町附近の魚介を食すると神経障害を起して死亡す)の原因が工場下水からの有機水銀といわれているが、日常の米・野菜・果実に水銀が含まれ、次第に増量するということは誠に憂慮すべきことである。



砒酸鉛

     農民の殆んどは、砒酸鉛が恐るべき毒性と、1ヶ月以上の残効性を有することを殆んど知らない。砒酸鉛についても大いに啓蒙すべきである。


 
土壌汚染の問題

     年々8万トンの農薬が田畑に散布されると、これ等水銀・砒素・燐・塩素・弗素・銅・亜鉛等を含有した農薬は、だんだん土中に蓄積される。
     米国農務省昆虫研究所ヤキマ氏によると、土壌に農薬を散布して3年半后に検査したところ、表面より6インチ深さの間に、DDT50%、BHC14%、アルドリン15%が残存した。これ等は根から吸収されるのである。
     コダ・マーチン博士(全米自然食協会々長)の講演によれば、現在食料品店で売られている食物の殆んどに農薬の残りが含まれているという。一例をあげると、米国議会で決めた食品のDDT許容含有量は7PPm(PPmは百万分の1)であるのに、最近個人的に行った分析によるとDDTは、卵−50PPm、チーズ150PPm、パン100PPm、乾燥フルーツ60PPm、バター200PPmと、遙かに許容量を上廻っていた。これらを連続摂取することが、米国に於ける変性疾患(癌・心臓血管病・精神病等)の多発の最大の原因の一つとされている。


 
生物界の混乱

     農薬によって生物界のバランスが破れる。しかも悲しむべきことには害虫増加の方向に。過去9年間農民は命を的に強力な農薬を用いたが、その結果、今や益虫・益鳥・益魚(天敵)は減少し、害虫の増加は種類量共に驚くべく増加し、害虫の農薬に対する抵抗性は増強の一途をたどっている。
     最近徳島県・高知県にパラチオンに対し、現在の5倍の抵抗性を持つ螟虫が現れたと報じられている。最近私の地方では、稲にヨトウ虫が発生した。未だかってなかった現象である。9月半ば農民は夜中にパラチオンを散布して中毒患者も現われた。
     又徳島県でもハスモンヨトウが異常出現して、元来虫害の少い葱・サツマイモ・サトイモ等を喰荒し、400ヘクタールが被害をうけ、700万円の費用をかけた薬剤散布も効無く、ついに自衛隊が火炎放射器を用いて焼き払った。林檎・桃・梨等は昆虫がいなくなったので、人工交配をしなければならなくなってしまった。ある昆虫学者は、若し今のような農薬使用がつづけば近い将来に野菜果実が出来ない世が来る可能性が大であるといっている。


 
健康農法を

     上述の如く、現代農法は化学肥料と農薬を重視しているが、これはただ一時的数量的増産のみを考え、生命を無視し、化肥・病虫害・農薬三者の悪循環を起す『死の農法』である。農学者も、政府も、健康を重視した農法を研究すべきである。又民間にあって、健康を重視し、農薬・化肥を使用せず、立派な収穫をあげている民間の諸団体の研究結果をも十分検討採用すべきである。

 

2. 慢性農薬中毒の自覚症状

     梁瀬 義亮 

     慢性農薬中毒の、臨床症状の所を、一般の人にわかるように書いてみました。

    症状

      頭………
       どうも近頃、頭がぼんやりする。頭が重いような感じがあり、殊に頸の後の方、項から後頭部にかけて、凝ったような重い感じがする。
       あれもしなければならぬ、これもしようと、心ばかり空まわりして、妙に実行力がなく、根気がなく、さっぱり労働意欲や人生に対する興味がなくなる。
       人間嫌いになって、人間の居ない静かな所へ行きたい。そのくせいらいらして常に不安で、じっとしていられないような気がする。
       腹がたってしかたがない。夜眠れない。夜中に目がさめたり、朝早く目がさめる。
       しかも昼は眠くてぼんやりする。記憶力が頓に悪くなる。すべてに悲観的になり、暗いことばかり考える。一層のこと死んだ方がましだなどと思いだす。
      目………
       ぼおっとしてしかたがない。よく目をこする。瞼がひくひくと痙攣することがある。
      耳………
       時々ピーンと耳鳴りがする。人によっては耳が聞えすぎて、物音がやかましくてたまらなかったり、時には耳が遠くなったりする。
      口………
       舌の先や横が、原因もなくただれたり、神経痛のような痛みが出たりする。
       舌の先に紫がかった点状の色素が沈着する。口が乾く。食事中によく唇をかむ。唇が乾いたり、まわりに紫がかった色がついたりする。また唇に水泡が出来て、後に紫色の色素が沈着する。
       さらに堀内歯科医の報告によると、歯牙や歯ぐきに、紫がかった色素が沈着したり、歯ぐきから出血したりする。(この色素沈着は重大である)。
      顔………
       色がどす黒くて、光沢がなく、口のまわりや鼻のまわりに、紫がかった吹出物がよく出来る。また口角炎(俗にあくちがきれるという)を起す。
      鼻………
       鼻血が出る人がある。また大変風邪をひきやすい。人によっては嗅覚を失ったり、逆にありもせん変な臭いがするという。
      喉………
       女性に、喉がつまるような感じがするという人が多い。
      胸………
       前胸部に圧迫感を覚え、しめつけられるような感じがする。しかし食物が通りにくいことはない。
      腹………
       ぼってりと重くるしい。みぞおちが圧えられたようで重い。食物は口にはおいしいが、すぐに満腹感が現われて、少ししかたべられないことがある。
       また食べたものが、なかなか消化しない。時々胸がわるくなることがある。酒の強かった人が、酔うと気分がよくなるより先に吐気がくる。腹がごろごろなる。便秘して兎の糞のような便が出る。しかも、時々原因もなく、軽い下痢がある。同様の腹痛もある。
      小便……
       小便の回数が多くなる。しかも毎回の量が多い。小便をこらえることが出来なくて、もらすことがある。一度尿意をもよおすと、こらえられない。
      皮ふ……
       全体に色が黒ずんで光沢がなく、顔面に紫がかった吹出物が出たり、頑固な湿疹や蕁麻疹が出て、大変かゆい。ことに夜間に、背中や下腹部や腰の辺が、大変かゆい。
      手足……
       よく冷える。しびれ易く、ことに夜間ふと気づくと、手がしびれている。また坐るとすぐに足がしびれる。時々下肢に、ぴりっとした、神経痛のような痛みが出る。下腿がだるい。
      汗………
       夏は大変多く汗が出る。また寝汗が出る。
      月経……
       量が多くなったり、期間が大変長くなったり、また少くなったりする。
      全身……
       疲れやすい。だるくって仕事がおっくうである。急に立つと、くらくらっと軽い目まいがする。 

    以上


3. 農薬禍

     梁瀬 義亮 

     その後全国より種々連絡いただきまして、ことに秋田県能代市山本組合病院の藤原正義先生の有機水銀に関する御研究をしらせていただきました。
     水銀剤は今や米作、蔬菜栽培にさかんに用いられ、ことにこのごろはボルドー液もすべて水銀ボルドーとなっています。まことに恐ろしいことであります。最近ますます農村の農薬による被害がはっきりしてまいりまして、その恐ろしさを痛感しています。
     今私の地方の農民は、約60%−70%が慢性胃炎の苦痛をもち、シロンばかりを愛用しているようです。
     また精神神経障害の人もしだいに増しています。青黒い顔をした精のない人が多くなっています。
     何とかして農村を啓蒙しようと努力しています。


4. 「健康農法」でしめ出せ農薬

    研究4年成果発表 五条・健康を守る会

     農薬は脳神経、肝臓をおかして凶悪な精神異常者、原因不明のノイローゼ患者をつくり、人間を破滅させるとして、4年間、使用禁止を訴えつづけていた五条市の健康を守る会=会長梁瀬義亮医師(43)=は、農薬禍を防ぐためには現行の農法を切り替える以外方法はないと「健康農法研究会」を設け、新農法の研究を進めていたが21日、苦心の成果をまとめた。

     ○ 


     ・・・現在使われている農薬(除草剤を含む)にはいずれもリン、ヒソ、塩素剤が含有されているため、人体に侵入すると中毒症状を起こし、死、または神経系統と内臓障害で廃人になるが、土中にはいった場合、土壌が荒廃、植物の生育に必要なバクテリアを死滅させ、益虫を殺して害虫の抵抗力を強める結果となっている。
     しかも一方では土壌の成分を殺す化学肥料をつかうため農作物の味、品質とも悪くなり、勢い病害虫が多発して不作となる、というのが研究の骨子。

     ○ 


     ・・・同医師らの調べによると土壌の荒廃、作物の不できについては、農薬、化学肥料の浸透でミミズがいなくなったことが最大の原因だという。ミミズは土の中にアナをあけて空気を通し、天然耕作者の役割りを果たすほか、フンは窒素、カリ性の有機質の良肥となり、農作物の成育を助けているが、1アール当たり25万尾前後いなければならないミミズが3分の1にも達しないと推測している。
     また鳥類、コン虫なども減る一方で、自然界のバランスは完全にくずれ、人間自体も、汚染された土中で栽培される毒性を持った植物で体内をおかされ、ガン、動脈硬化など悪性の病気が誘発されていると結論している。

     ○ 


     ・・・技術面を受け持った窪さんが約1ヘクタールの田畑を利用、34年ごろから稲作はもとより果樹、ソ菜類などの栽培に農薬、化学肥料をボイコット、有機質の草、ワラ、油カス、鶏フンなどに限定したところ、米作では普通1アール当たり平均450キロとれるのが600キロの増収をみたほか、果物、トマト、スイカ、キュウリなどのソ菜類は化学肥料をつかったものより味がよく、病害虫の発生も少なかった。
     また、肥料も化学肥料にくらべ1アール当たり5千円ほど安くつき、農家経済の上に大きなプラスとなっているという。

     ○ 


     ・・・家畜でも、農薬や化学肥料でつくった飼料を食べると病弱になり、牛乳やタマゴなど味も悪くなるが、有機質肥料でつくった飼料を食べさせるとほとんど病気をしない。
     この実験例から
      1. 人体に危険な農薬類をつかうより経費が安い
      2. 作物のできぐあい、味がすぐれている
      3. 消費者に評判がよいためさいきん市内でも無消毒栽培に踏み切る農家もふえているという。
     同会では毎月1回ずつ研究会を開いて農家の啓発をつづけているが梁瀬医師は手段を選ばない国の農業政策は“文明の暴走”だとキメつけている。


    (読売新聞)
     病、鼠害のためケール栽培に失敗したとか、未だケールを実際に飲んでも見ずに投出した方が大部分のようです。


5. 水銀系農薬の毒性

    東京理大教授 T.I. 

     農薬の中でも最も毒性が高く、水俣病を起し得るEMC、EMPなどでは、その使用には特に注意がはらわれなければならない。また、最も使用量の多いPMAでは、幸い水俣病は発症しないが、肝臓に相当量の水銀蓄積を来し、組織を破壊することからやはり十分な注意が必要である。
     最近農村地帯に起る肝臓障害も、農薬の使用と全く無関係ではないかも知れない。そして農作物に残留する可能性のある農薬としては、水銀剤のように慢性の中毒を起しうる物質を使用するのは好ましくないから、やはり水銀剤に変わるべき殺菌剤を開発し、水銀剤の使用はさけるべきであろう。
     また最近は農薬ばかりでなく、工業用水が地下水規制等により不足がちになっている為に、大量に必要とする冷却水、洗滌水等の高度利用が行なわれているが、その結果水に微生物が繁殖して、パイプをつまらせたりする。それを防止するのに殺菌剤が使用されるわけであるが、殺菌剤として有機水銀化分物の中で最も危険なEMPが極めて大量に石油化学の冷却水、ゴム工業、都市ガスの洗滌水等に使用されている。中でもパルプ工業の洗滌用には一工場あたり年間数十トンにのぼるEMPが使用されている。冷却水の場合は循環してくり返し用いられるが洗滌水の場合はそのまま廃水として河や海に放流されているのであるから魚介などが汚染されて、第二、第三の水俣病を起さないという保証はない。
     かの不幸なる水俣病の場合は、有機水銀化合物は合成途中に副生したものが廃水に流された事により起ったものであった。そしてその恐るべき毒性がはっきりと知られている現在、それを添加したものを河や海に放流している事実を知って慄然としない者がおるであろうか。関係会社の猛省はもとより、行政当局の適切な指導を望みたい。

    化学療法1965・1月号


6. 「使うな水銀農薬」

    健康害する恐れ
    体内に外人の3倍含む

     水銀中毒の恐ろしさは、熊本県水俣市や新潟県阿賀野川流域に発生した「水俣病」の実例で広く知られているが、日本人の主食である米のなかにも水銀が含まれており多量の水銀がはいり込んでいるという。
     衆議院科学技術振興対策特別委員会(原茂委員長)は9日午後、はじめてこの問題を取り上げ、東京歯科大学教授上田喜一(公衆衛生・産業中毒)東大教授浮田忠之進(衛生化学)同教授白木博次(神経病理)の三氏から意見を聞いた。
     三氏は

    1. 、米や野菜、果実のなかの水銀は農薬によるものである
    2. 、現在のところ中毒症例はみつかっていないが、将来、国民の健康を害する恐れがある
    3. 、外国では有機水銀性農薬の直接散布は禁じられている

     ことなどを指摘
     「わが国が科学的先進国であるなら、諸外国と同様、有機水銀性農薬の使用禁止を考えるべきだ」と口をそろえて強調した。
     上田教授によれば、イネのイモチ病にフェニール水銀製剤が有効なことは昭和28年ごろ見つけられ、広く使われるようになったという。
     2、3年前からは土壌殺菌にアルキル水銀製剤も使われるようになり、現在では、水銀の重さにして年間400トンが全国の田畑にばらまかれているという。
     浮田教授は、体内の水銀量の目やすとして毛髪中の水銀を測定したが、日本人の全国平均は6.02PPMであった。一昨年秋、東京オリンピックのとき選手村の理髪店で集めた外国人の毛髪を調べたところ、その平均は1.89PPMにすぎず、日本人の毛髪には外国人の3倍の水銀が含まれていることが明らかとなった。
     白木教授は、水俣病患者の悲惨な症状について説明し「有機水銀は脳の神経細胞をつぎつぎに冒し、血管を硬化させてしまう」とのべ、いったん脳のなかにはいった水銀は長期間そこに蓄積されて害をなすこと、水俣病の経験からいって母親の体内の微量な水銀が胎児に影響して精神薄弱や奇形の子どもができること、などを強調した。
    (朝日)


7. 残留農薬は少ない 厚生省、実態調査の中間発表 一部のリンゴに不安

     厚生省はさる39年度から「米、野菜、果実の残留農薬実態調査」を進めていたが、5日その中間結果を発表した。
     発表されたのはリンゴ、キュウリ、トマト、ブドウ、玄米の五品目についてで、それによると「各品目とも少量の残留農薬が検出されたが、アメリカはじめ諸外国の許容基準にくらべると、総体に残留量はすくなく、健康に悪影響を及ぼすほどではない」という。
     しかし、他よりはきびしいニュージーランドの基準に照らすと、一部リンゴで亜ヒ酸の量が上回ることもわかったので、同省はこの調査をもとに、おもな農産物について残留農薬許容基準を定めることになった。

     残留農薬の問題は、さる29年、パラチオンが付着した生キュウリを幼児が食べて、死亡した事件が起きたことが、きっかけとなって、クローズアップされ、さる31年から厚生、農林両省は、有機リン製剤を散布後、一定期間は収穫しないこと、リンゴについてはアメリカの許容量を暫定基準とすることに決めた。
     しかし、これは外国のものをそっくり借用した暫定措置であり、わが国でも本格的に実態を調べ、適正な基準をつくるべきだとの声が強まったため、39年度から、これら五品目の生産地調査(リンゴ=青森、長野。キュウリ=茨城、神奈川、高知。トマト=千葉、長野。ブドウ=山梨、岡山、大阪。玄米=新潟、山形など7県)および市場調査(東京、大阪)を行なっていた。

    (朝日41、7、7)


8. 農薬の食品残留毒性

    東京歯科大学教授 K.U. 


     農薬の多くのものは、散布収穫までの数週間の期間に分解、無毒化される。
     猛毒のパラチオンなどの有機燐剤もこの例で、残留性の点では良性の農薬と言えよう。
     これに反して永く残留して問題を起こすものは、DDT、ディルドリン、エンドリンなどの有機塩素殺虫剤と、水銀、鉛、砒素などの金属である。

    一、有機塩素剤
     欧米では、Carsonの名著Silentspringが強調したように、牧草、牛、牛乳、バター、牛肉のルートを通り、一方は直接そ菜、果実からも入り、人の脳神経、内臓に蓄積することが注目を集め、無数の分析、研究があり、また実際に慢性中毒が報告されている。
     米国は先年、牧草に塩素剤を禁じ、本年からはドリン剤を米を含めて二三種の穀類に使用を禁止したという。
     英国もドリン剤を早急に禁止するようとの勧告が国会で承認された。外国政府はこのように積極的にこの問題を処理している。
     日本では幸いにDDTを農薬としてほとんど使用しなかったが、イネにBHCが、そ菜にアルドリン、エンドリンが盛んに使われているので、やがてこの問題もとり上げられるのであろう。

    二、有機水銀農薬の残留
     これは外国では播種前の種子消毒に専用され、したがって収穫した農作物には残留しないことが常識とされている。もっとも分析方法が進歩した現代では、天然に土中にある超微量水銀までも捕えてしまうので、上記の「検出されない」とは、ほぼ0.05ppm以下と米国では解釈されている。
     種子、もみを有機水銀で消毒して後に播種すれば、水銀は成長によって稀釈されてこの数字以下になるが、日本では独特の使用法、即ちフェニール水銀を直接イネに散布すること、および土壌殺菌の目的で、そ菜の播種直前にアルキル水銀を土中に注ぐことに問題がある。
     フェニール水銀が、イネの三大病害虫の一つであるイモチ菌に対して卓効があることが日本で発見され、戦後の困難時に食糧増産に貢献した功績はもちろん認めなくてはならぬが、その後十数年無反省に使用を続け、さらに大規模に航空散布が行なわれる点が現在追求されている。

    三、米の中の残留量
     厚生省では3年計画で数種の農薬の残留量分析を続け、来年3月に終了する。先日の新聞紙上の中間発表では、玄米の水銀は平均0.17、最高0.3ppmであった。
    表一 米の水銀含有量(ppm)(藤村)
    水銀粉剤
    無散布地区
    水銀粉剤
    1回散布地区
    白米0.040.07
    玄米0.070.14
    ぬか0.210.37
    もみ0.050.06
     白米に換算すればこれの60%程度低くなる(ぬかに多いから)。農林省発表の数年前のデータも0.1〜0.2ppmであった。私どもの教室で、隣接した水田の一方にフェニール水銀粉剤を1回散布した成績を表一に示したが、無散布対照区の2倍になっている。
     農家は平均して1回半散布するのが現状であるから、これより多いものもあろう。ことに穂が出てからの「ほくびいもち」に対して水銀を散布すると、外部から胚に侵入して濃度が高くなる。

    四、人体内蓄積量
     水銀は特に肝、腎に蓄積する。その現状を示すには個体差が大きいから100例に近い屍体の分析を行なわねばならぬ。
     しかし重金属は毛髪に濃縮される性質を利用して、東大薬学部の浮田教授は外人との比較を試みた。
     日本人毛髪(73名)6.02±2.88ppm 外人毛髪(30名)1.89±1.47ppm 即ち、私どもの毛は欧米人の3倍水銀が多い。
     ことに面白いのは、日本から欧米に留学した人の毛を分析すると、1年半ぐらいで外人のレベルまで下がり、日本に帰国後は1年半で元の値にもどる。
     毛髪の水銀のすべてが米食に原因するとは考えない。それにまぐろ、さけなどの魚肉も白米以上の水銀を含有しているから(海水の天然水銀が原因であろう)、日本人の魚食の習慣も関係があろう。
     しかし、白米一日量300グラム中の水銀0.03ミリグラム(0.1ppm)が寄与していることも確実である。

    五、水銀の慢性毒性
     現在の米を食べ続けると水俣病になるかと心配するものがあるが、それは非科学的なノイローゼである。
     水銀の毒性は表二に示したように無機水銀、フェニール水銀、アルキル水銀を区別して考えねばならぬ。
    表二 水銀、有機水銀の慢性中毒症状
    無機水銀ノイローゼ様症状(意思集中不能、記憶力不良、頭重、不眠、悪夢)、振顫(手、唇、舌のふるえ)、精神不安定症状(過敏興奮)、歯齦炎
    有機水銀(ことにアルキル水銀)上記の症状のほかに振顫(企図性)、運動失調、言語(構語)障害、視野狭窄、蛋白尿
    フェニール水銀アルキル水銀より良性(比較的体内で分解されやすく、したがって脳に入りにくい)
    有機水銀合成工場、農薬工場、食中毒例では水俣病
    病理組織変化  肝、腎の変性、小脳、大脳の細胞変性脱落
     水俣病を起こしうるのはアルキル水銀(メチル水銀、エチル水銀など)だけで、最も土壌殺菌用使用は禁止すべく、種子消毒も近い将来に他の薬剤に切り替えたい。
     イネに用いるフェニール水銀は、実験上も人体中毒例でも水俣病を起こした例はなく、実際に脳に入りにくい。
     障害は主として肝、腎に現われる。フェニール水銀は分解されやすく、米の中ではもはや無機化しているという説もあるが、水銀そのものに一定の毒性があるから問題は解決しない。

    六、水銀残留毒性の意義
     米の水銀量は微々たるものであるから、吸収と排泄はバランスしていて、それ自体でここ数年に危害を及ぼす量ではない。
     しかし、野菜、果実から来るもの、年々に水田に落ち、河川に流され、魚介に濃縮される量、海産魚類、煤煙、自動車排気中の水銀等の総量が一日の吸収量である。工業化の進展とともに、環境汚染は必然的に進行する。したがって人工的、積極的汚染は極力避けるべきもので、農薬のような合成品は、研究によって残留性のない低毒性のものに切り替えられるはずである。被害が現われてからでは遅すぎる。


9. 「農民の健康会議」から

     農民の42%は農薬中毒にかかっている――第8回「農民の健康会議」(25日、東京・農協ホールで開催)での報告は、あらためて農薬中毒が深刻な問題であることを訴えた。
     しかも、農薬は農民の健康をむしばんでいるだけではない。その毒性は、米や野菜、くだものなどに残って、それを食べている日本人すべてが水俣病のような、おそろしい水銀の慢性中毒を引起すおそれさえあることが明らかにされた。
     このような危険な事態を救うために、いますぐ、どんな手が打たれなければならないか。この会議で討論された内容を中心に、農薬中毒問題を考えよう。


    農薬禍 望まれる早い対策
    「七割中毒」地区も 母より乳児に多量の水銀蓄積

     日本農村医学会(岡本正己会長)の調査は、昨年6月から9月までの4ヵ月間、北は北海道の旭川総合病院から南は熊本県の熊本大医学部農村医学研究会まで、全国16の農村病院が手分けして3,940人の農民を調べる大がかりなものだった。

    とくに多い果樹栽培地
     わが国で使われている農薬は、昭和40年度の農林省調べによると、68.1%が人体に有毒な有機水銀剤などだ。
     残り31.9%は一応、無害とされているが、それでも蓄積されると有害ではないかと心配されている。
     三重県で調査地区に選ばれたのは、松阪市の中心街から約6キロゆるい坂を登った大河内部落。ほとんどがミカンを栽培している農家である。
     ここの農民127人のうち、10人に7人強が農薬中毒にかかっていることがわかり、調べに当った県厚生連中央総合病院の医師たちをびっくりさせた。
     急性中毒といっても、「頭が痛い」「からだがだるい」などの軽い症状が多かったが、中毒にかかった割合では全国の最高。「ミカンをつくるには、水田や畑よりたくさん農薬を使う。ここで平均すると、夏は6日に1日の割合で農薬をまいている。これでは中毒もおおくなるはずだ」と同病院の波利井清一院長はいう、
     ほかでも、果樹栽培地帯は中毒の多発地になっていた。ミカンとナシをつくっている徳島県麻植郡鴨島町など吉野川、那賀川流域の15部落や、ミカンと茶の静岡県磐田郡豊田村では、やはり70%近い農民が中毒にかかり、全国平均の「10人に4人強」(42.3%)をはるかに上回った。
     水田での農薬散布だけという一毛作地帯でも、秋田県平鹿群平鹿町などでは、調べた282人のうち約60%が症状を訴え、皮膚のかぶれた人が80人も出た。
     中毒の訴えをしたのが30%程度で、ほかより少なかった長野県でも、ビニールハウスの作業だけは「ハウス病」と土地の人たちがいう中毒が多く、80%もこれにかかった。
     ハウスのなかは高温多湿のうえ、まかれた農薬がそのまま残っている。からだに最も悪い環境なのだ。
     農民は中毒にかかっても、なかなか病院に行こうとはしない。こんどの調べでも、中毒症状があって医者にみてもらったのは男2.1%、女5.5%にすぎない。
     がまんしきれなくなって病院にかつぎこまれる人たちのなかには、もう取返しのつかなくなっている場合もあった。
     厚生省の調べでは、毎年40人前後が誤った使い方をして死んでいる(このほか農薬で自殺するものが毎年約700人もいる)。

    散布中倒れ流産の妊婦
     長野県の北信総合病院で昨年夏、リンゴの農薬散布中に倒れた2人の妊婦が治療をうけた。
     2人とも助かったが、1人はこれがきっかけで流産した。「妊娠中の散布は絶対に禁止させなければ――」と同病院の泉山富雄医師は訴える。
     熊本県玉名郡天水町でも昨年春、町ぐるみの中毒事件が起った。
     町内8つの部落の1,512人の働き手のうち264人が倒れた。
     さいわい死者はなかったが、皮膚がかぶれてなおすのに2ヵ月もかかった人もいた。果樹の共同防除に使った新薬が原因だった。
     「ズキンとマスクをつけ、手にクリームをぬって、と使い方を示してあるのだがそんな危険なものが自由に売られているのがおかしくはないだろうか」
     と治療に当った熊本大医学部の高松誠助教授は指摘する。

    外国は作物別に許容量
     もっと注意すれば、農民の中毒は少なくすることもできるだろう。
     だが、主食である米や野菜、くだものにひそんだ農薬が人体にたまっておこる慢性中毒は、さらにおそろしい。
     イモチ病防除の特効薬として使われている有機水銀が米のなかや、それを食べている日本人の体内にどのぐらいたまっているだろうか。
     日本農村医学研究所は、最近の研究成果として

       「40年産米には、水銀農薬を使わなかった昭和20年当時の約7倍、0.1−0.2PPM(1PPMは百万分の一単位)程度の水銀がふくまれている。また昨年秋、全国12の地区から集めた163人の農民の毛髪から平均7.01PPMの水銀が検出された。これは外国人の約4.6倍にあたる」

     と報告した。もっとも

      「まだ慢性中毒の危険を問題にするのは早いという説もある。だが、現実は水銀農薬の“人体実験”が始っている、といえないだろうか」

     同研究所の若月俊一所長はいう。

       いちど人体にはいった水銀は、母親から子どもにまで伝わる。別の研究結果によると、生れたばかりの赤ちゃんに母親より多量の水銀の蓄積が発見された。

     助言者として会議に出た東大教授の白木博次氏は、これを

      「水銀が母体から胎児へ移って発生した胎児性水俣病と似た現象だ」

     と重視し

      「水俣病の原因となったアルキル水銀は、同じ有機水銀でもイモチ防除に使っているフェニール水銀とやや違う。だから、農薬による慢性中毒が水俣病と同じような形で発生するかどうかはっきりしていない。だがこのような類似現象をたどって、農薬水銀の慢性中毒症状を予測してみなくてはならない段階にきている」

     と警告する。欧米諸国では、こんな危険な水銀農薬はもともと使っていない。
     低毒性有機塩素材のDDTでさえ、米国ではケネディ大統領時代にその毒性が作物に残るのをおそれ、とくに牧草には空中散布するのを禁止したほどだ。ほとんどの農薬が各農作物別に残留の許容量をきめられている。ところが日本では、農薬による増産効果ばかりが注目され農薬使用が本格化した27、8年からつい昨年まで、十数年もの間まったく野放しにされていた。

    農林省もようやく本腰
     農薬中毒問題がやかましくなってから、農林省はようやく昨年5月、3年がかりで、非水銀系農薬に切替える方針を出した。
     またできるだけ毒性の低い農薬の開発にも乗出している。
     厚生省も米や野菜、くだものに残っている農薬の分析を続けており、近い将来に、欧米諸国のような食品の残留農薬許容量を決めることにしている。
     農林省では、これができたら、新しく農薬の使用基準をつくる考えだという。
     だが、このような政府の方針や意向は、必ずしも地方行政の末端まで行渡っていない。
     茨城県のある農協関係者は「政府の音頭とりで毎年やる農薬の危害防止運動も、農薬の保管や管理の適正化をいうだけ。農薬を使う農民の立場で危険を考えない。農業改良普及員は新農薬を使うことをすすめるだけ」と不満をもらす。
     東京歯科大の上田喜一教授は「とりあえずやらなければならないこと」として  1.人体に蓄積して不治の病気を残す農薬と急性毒性のとくに強い農薬の販売禁止
     2.農薬による急性中毒の届け出を法律で義務づける
     3.農薬の許可基準をきびしくする
     −を提案、すぐ実施するよう、政府に迫っている。

    自由販売に切実な訴え
     中毒で7日間も苦しみもだえたという島根県農協婦人部会長の山内静代さん(52)は、こんどの会議で「外国で禁止されている農薬が、どうして日本では自由に売れているのでしょうか」と、その切実な体験から危険な農薬の販売禁止を訴えた。
     この会議に助言者として出席した評論家の丸岡秀子さんは、これにこう答えた――農村の人たちはみんなどしどし声をあげ、その声を素直に聞こうとする姿勢のない政府や中央の農業団体の目をさまそうではありませんか。
     毒性の強い農薬は、たしかに食糧増産に役立ったでしょう。
     しかし、国民のからだをむしばんでいることがはっきりしているという広い観点での政策が必要になっています。
     農薬を売る立場の農業団体もメーカーも、農薬中毒の実態を真剣にみつめ、国民の健康のために、毒性のない農薬の普及に、できるかぎりの努力をしてほしい。
    (朝日42・1・27)


10. BHCまき過ぎ 有害?各地で苦情続出

    くさい新米
     ことしの新米はくさい、という苦情が各地ででている。
     農林省などの調べでは「殺虫農薬BHCのまきすぎらしい」とわかったが長野県下では新米の粒から人体に有害なガンマBHCが国際許容量の約14倍に当る10PPM(PPMは百万分の一を示す単位)も検出されるなど関係者をあわてさせている。
     すでにくさい米を返品するという騒ぎも起きているが、新米が本格的に出回るのはこれからなので、農林省は「もうしばらく調べてから、必要対策を考えたい」といっている。
     食糧庁の調べだと、くさい米の苦情は、まず大阪市内から起った。
     10月に高知県産の新米が出回ったところ、「ご飯をたくとプーンとにおう」との訴えが十数ヵ所からきた。
     「くさい」という表現は

      1.薬品のにおい 2.カビくさい 3.こげくさい

     とまちまちで、かなり個人差がある。
     高知市周辺の早場米地帯から送られた新米は二千二百トンもあったが、大阪食糧事務所は売渡しを一時見合わせ、約九百五十トンは倉庫に眠ったままだ。
     富山県から大阪に送られた約七十トンの新米からもくさい米が続出。
     北陸地方一帯の消費者からも「新米の一部におかしい米がある」と苦情がしきり。
     11月中旬ごろには、名古屋市へ送った長野島下伊那郡地方の新米が返品されるという騒ぎがあった。
     農林省農業技術研究所が原因を調べたところ、くさい新米のなかにBHCが普通の米の25倍−50倍も残っていた。
     検出したBHCは2PPM。このうちとくに人体に有害とされるガンマBHCは0.4PPM。
     国連で定めている国際許容量は日本人の平均体重を50キロとみて、ガンマBHCが0.6PPMなのでこの限度を越えていない。
     だが、数ヵ月前までに同研究所が日本の米のなかから検出したガンマBHCは多くて0.08PPMだったから、かなり多くなっているわけだ。
     さらに、日本農村医学研究所(所長、若月俊一長野県・佐久総合病院長)がこのほど長野県と共同でおこなった検出では、国際許容量の14倍以上にあたる10PPMのガンマBHCが同県のくさい新米からみつかった。
     ことしは全国的に25年ぶりといわれるほどウンカが大発生し、稲の収穫直前までBHCを大量にまいたため、根や葉、モミから吸収され、米粒のなかに残ったとみられる。
     BHCは急性中毒を起すことがほとんどないので、最も安全な農薬とされているが、いったん体内にはいると、有機水銀と同じように蓄積され、体の脂肪分と密着して、けいれんやてんかんの症状を起すおそれがあるとされている。
     これについて若月農村医学研究所長は「くさい新米のなかに有機塩素系の農薬が含まれていたことはBHCがことし限りの農薬ではないだけに、危険信号とみるべきだ」と重視。
     全国米穀小売商組合連合会も「くさい新米の政府売渡しを中止すべきだ」と食糧庁にはたらきかけている。

    福永農業技術研究所農薬科長の話
     BHCを必要以上まきすぎることは、いけない。このくさい米問題から反省したい。

    安尾農林省植物防疫課長の話
     ウンカの大発生に驚いて、農家が必要以上のBHCをまいた。
     来年から十分気をつけるよう指導を強化するつもりだ。
     くさい米全部が長野県の実験例のようでは重大だが、長野の例は真白になるほどBHCをまいた水田からの米ではないだろうか・・・・・・。
    (朝日41・12・24)


11. 農薬の恐怖

    食卓から追放できるか 少ない対象に不安

    今秋スタートの残留許容量規制
     農薬の恐ろしさといえば、これまでは農薬を大量に浴びたり、飲んだりした場合の急性中毒だけが考えられ勝ちだった。
     ところが、農薬にはもう一つの恐ろしさがある。残留農薬問題、つまり収穫前にまかれた農薬が作物に残り、それを食べた人々の体内に蓄積されて、やがて人体をむしばむ、という慢性中毒の問題だ。
     日本では、この対策がこれまで欧米諸国にくらべて10年もおくれているといわれている。
     それだけに、今度、リンゴ、ブドウ、キュウリ、トマトの四食品に残留するパラチオンなど五農薬の安全許容量が決って、今秋から実施されることになった意義は大きい。
     だが、これで食卓から農薬の恐怖は追放できるだろうか――。

    アメリカより十年以上遅れ
     「許容量が決ったことは、画期的な進歩だが、それにしてもこんなにおくれたことは問題だ。生産を優先する立場と、国民の健康を第一とする立場の調整に時間をとったのではないか」――農薬問題にくわしい東京歯科大上田喜一教授は、こう指摘している。
     アメリカでは、残留農薬の慢性毒性を重くみて、許容量を決めたのは10年以上も前だ。ソ連なども負けず劣らずに決めた。
     日本では、農薬の使用量が年々ふえ「このまま野放しにしては危険」という声が高まったのはやっと数年前。しかし、対策が具体化したのは、昭和38年に国連世界保健機関(WHO)と国連食糧農業機関(FAO)が、それ以上の農薬を体内にいれてはならないという「許容1日摂取量」を15種類の農薬について決めてからだ。
     厚生省は39年から、米、野菜、果物など数品目ずつ農薬残留量の調査を始めた。
     そして一昨年にリンゴ、キュウリ、トマト、ブドウ、玄米の五品目を2年間調べた結果が出た。
     しかし、これを参考にいざ許容量を決める段になると、生産者や農薬メーカーの側に立つ農林省がいろいろ注文をつけた。
     「きびし過ぎて生産が減るようでは困る。湿気が多く、病虫害の異常発生が起りやすい日本では、そうした場合を見込んだ許容量にしてほしい」というのが農林省側のいい分。
     結局、さらに一年間、厚生、農林両省で協議を重ね、3年ごしでやっと許容量が決ったわけだ。

    使用率トップ銘柄も多い
     では、許容量そのものを関係者はどう見ているか。リンゴの産地の長野県園芸試験場は「たとえば、DDTの許容量1PPM(リンゴの場合。その他は0.5PPM)は、アメリカの7PPMにくらべて、きつ過ぎる。安いDDTの代りに値段の高いほかの農薬を使うと、生産コストにもひびく」と訴える。
     許容量以上に農薬が使われないため農林省が決めた「農薬安全使用基準」によると、早生リンゴの場合、これまで3回ぐらいまいていたDDTは1回、普通リンゴは8月中旬以降収穫まで使用禁止にするなど、DDTをふんだんには使えなくなる。
     たしかに、BHCの許容量などもアメリカの十分の一とかなりきびしく、全般的にヨーロッパやソ連にむしろ近いからだ。
     しかし、「アメリカの基準は甘すぎる」というヨーロッパ側の非難にアメリカでも許容量を再検討する動きもある。
     また日本の場合とくにきびしくしなければならない理由がある。
     日本では使われる農薬の種類が約三百種類、四千銘柄と多いため、一種類の農薬の残留量をぐんとしぼっておかないと、農薬全体の残留量がふえる心配があるからだ。
     しかも単位面積当りの農薬使用量は世界各国に比べて一番多い。「もっときびしくしたっていいじゃないか」という声が消費者団体などから出て来るわけだ。
     さらに、こんど決ったのが、たった四食品、五農薬というのも心もとないという意見が多い。
     アメリカではすでに穀類、コーヒー、食肉、牛乳、飼料まで実に三千種類もの許容量が決められている。
     日本でも、ナマで食べるキャベツや大根、毎日口にする米や茶などについて、毒性の強いドリン剤やEPNなどの農薬の許容量を早く決める必要があるだろう。

    監親体制の完備には難問
     決った許容量が実際に守られるかどうかということも課題だ。
     これはまず農林省が農薬を使う農民に対して、残留問題をどの程度徹底できるかにかかっている。
     農林省は、各府県の旧郡ごとにある病害虫防除所の防除員(一万八百人)や農業改良普及員に講習会を開いたり、各農家が戸別に農薬を使っていたのを共同使用に切りかえさせたりして、許容量を上回らないようにしたいといっている。
     しかし、農薬業者は売込みに熱中して、安全な使い方の指導など、ゆきとどいたサービスに欠けがちだ。
     また、厚生省は、全国の食品衛生監視員を動員して、農協集荷場や市場、小売店で抜取り検査をするという。だが、百万分の一という単位の微量の残留農薬を調べるのには感度のよい高価な機械と、専門のスタッフが必要だが、すべての府県に十分そろっているとはいえない実情だ。
     生産者や業者に説得力を持つためにも、監視体制は今のままでは万全とはいえまい。

    慢性毒性試験これから本番
     残留農薬による慢性中毒をなくすために、許容量が決められたほかに、農林省は新しい農薬を許可する場合、43年度からは慢性毒性をチェックすることになっている。
     急性毒性だけ調べていたのに比べれば、この点でも一歩前進だ。
     しかし規制の内容は、3ヵ月間の動物(ネズミ)実験でよいことになっている。外国では少なくても1年間、アメリカの場合はネズミとイヌで2年間試験したうえ、奇形が生れるかどうか調べるため三世代もの実験が義務づけられているのに比較すれば、まだまだ不十分。
     農薬の多くはもともと殺菌、殺虫効果のある、いわば“毒薬”なのだ。だから、たとえわずかずつでも毎日の食物を通じて口にはいり、体内にたまった場合、神経や内臓をいためたりガンの原因になったりしないかどうか、子孫へ悪い影響がないかどうかまで問題になるわけだ。
     目に見えない毒物から国民の健康を守るために、念入りな慢性毒性試験で安全なことがわかった農薬以外は使えないようにすべきではないか。
     残留農薬対策はこれからがむしろ本番といえよう。

    (43・3・30 朝日)


12. 多量のBHCで白血病

     8年間も殺虫剤のBHCを散布していた作業員が、白血病にかかって死んだ―という症例が、1日京都市左京区の京都会館でひらかれた「第9回近畿血液学地方会」で、大阪赤十字病院の星崎東明・内科副部長から発表された。
     BHCが原因で白血病になって死亡した例は、日本でははじめて。
     星崎副部長は「皮膚や口などからはいったBHCが骨髄に蓄積したもので、BHCを多量に使う農家の主婦や一般人も危険です」といっている。

     白血病で死亡したのは東大阪市(当時河内市)の環境衛生課に勤務していたAさん(44)。
     さる33年から41年まで8年間、民家や下水などのカ、ハエ退治のため、殺虫剤のBHC(ベンゼン・ヘキサ・クロリード)の散布作業をつづけていた。毎年5月‐10月、日曜日をのぞいて一日5時間も散布。41年8月、貧血と皮膚に紫のはん点がでたため、大阪赤十字病院を訪れた。検査したところ、骨髄に多量のBHC成分が付着、骨髄障害を起こし、白血球細胞がガン化していたほか、白血球、赤血球、血小板とも減少する非白血性白血病になっているのがわかった。Aさんは、ことし4月に死亡、公務災害と認められたが、長期散布作業をつづけていたうえ、マスクをつけていなかったという。
     BHCは、ベンゼンと塩素の化合物で、白灯油に溶かして使われ殺虫剤として、各種の商品名で広く市販されている。BHCが体内に蓄積されると白血病になる―ということは、学会では知られ、欧米では約50人の死者がでている。しかし、日本では例がなく、一般の人には全く知られていなかった。
     また、さいきん売り出されている電気蚊取り器にもBHCを使ったものがあるが、アメリカでは、こどもがこの蚊取り器が原因で白血病となり、死んでいるという。
    (43・6・13 サンケイ)


13. 土の中の発癌物

     土の中にある発癌物質には、発癌性ならびに発癌促進性物質による土の汚染、それらに汚染された水による汚染、および土中における発生、とが考えられる。

    1、土の汚染
     大気を汚染している発癌物の降下による汚染。
     工場・暖房からの煙やすす。自動車・航空機の排気ガス、原水爆による放射能塵。
     発癌性のある農薬の散布(DDTなど)肥料の施用(合成硫安には相当の3・4ベンツピレンがある)、工場・鉱山の廃水、乱用されている洗剤(発癌促進性がいわれている)、などによる汚染。

    2、水による汚染
     上記発癌物質に汚染された水による土の汚染(灌漑や滲透)。

    3、土中での発生
     一定の条件下では土中での発生も考えられる。
     たとえば、アフリカのトランスケイには食道癌が多いが、その地域の土壌にはモリブデンが欠乏している。  そして、そこにそだつ植物には、強力な発癌力をもっているジメチール・ナイトロサミンが証明されるという。これは、土壌にモリブデンが不足すると、植物体中に硝酸塩がふえ、これが亜硝酸になり(植物体内または細菌作用で)、この亜硝酸が一定の条件の下で、アミンと化合してナイトロサミンになる、というのだ。同様のことは、除草剤2・4・Dをつかった場合にも、硝酸塩肥料が乱用される場合にも、おこりうる。
     さて、胃癌は沖積層の低湿地や、有機質にとむ泥炭地、あるいは遊離硝酸分の多い土地、などに多発するといわれている。こうした有機分の多い低湿地では、一方、有機分の分解(腐敗・醗酵)によって各種のアミンが出来るし、他方、亜硝酸菌の繁殖(通気の悪いところでよく繁殖する)により、亜硝酸も出来やすい。
     そこで、何かの都合で、土壌の中でも発癌性のあるナイトロサミンが出来るのではないか。
     2・4・Dも、硝酸肥料もよく使われているので、その可能性は、いっそう大きいように感じられる。
     また、亜鉛や硅素にとむ土壌や水の地域にも癌が多い。しかも、この影響は、石灰の存在で弱められるか、なくなる。なお、一体に、石灰岩性土壌地方には癌は少いそうだ。
     ただし、亜鉛や硅素には発癌性は知られていないようだから、あるいは、これらの場合でも、何か発癌性のものが出来るのでもあろうか。
     それはともかく、土壌中の発癌性ならびに発癌促進性の物質は、植物に吸収されて、食用植物からは直接に、牧草その他飼料植物は、それらによって飼育される家畜の供給する食品(乳・卵・肉)をへて間接に、あるいは、また、飲用水として、結局はわれわれのからだにはいって来るわけだ。(遠藤)


14. 野菜に毒性の農薬 エンドリン 洗っても、煮てもダメ

     ハクサイ、キャベツ、レタスに毒性の強い農薬がかなり多量に含まれている――との研究が長野県佐久総合病院の若手グループでまとめられ、30日から日本で開かれる「第4回国際農村医学会議」で発表される。
     研究グループは、農協組合立の厚生連・佐久総合病院薬局長の河西朗医師ら4人。昨年春から2年がかりで東京上野、池袋、長野県内の八百屋から一般に売られているハクサイ、キャベツ、レタスを買集め、殺虫剤のエンドリン、アルドリン、BHC、DDTの4種がどれだけ残留しているかを調べた結果、きれいに水洗いしたあとも殺虫剤を検出、最高値はエンドリン1・2PPM(PPMは100万分の1の単位)アルドリン0・01PPM、BHC0・12PPM、DDT0・35PPMとなっていた。
     とくに注目されるのはエンドリンで、この4種の殺虫剤のうち、農薬毒物指定を受けているのはこれだけ。毒性がDDTの15倍、無色、無臭、有機塩素剤の一つで、からだにはいるとなかなか排出しにくいが、それがかなり多量に残留していることがわかった。
     エンドリンは洗っても煮ても防除できず、万一中毒を起こしたとしても治療薬はない。
     動物実験によると、ハツカネズミにエンドリンを飲ませた場合、体重を1キログラムに換算して6ミリグリムが致死量となる。(44・9・28・朝日)


15. ミカンと農薬と天敵

    倉敷市 R.K. 

     「母乳からディルドリンを検出したことで、農薬汚染の危険を警告するという私たちの研究目的は大半が達成された。あとは、医学会がこれを取上げ、人体への影響と本格的に取組むべきだ。すぐに結論は出来ないかも知れないが、国へ、農薬規制をきびしくする様働きかけることぐらいは、できるはずだ。」
     これは、現在の医学会にいらだたしさを感じておられる、高知県衛生研究所、食品獣疫部長、西村孝男先生の御言葉です。
     高知衛生研究所は、これまでにも、牛乳、キウリ、母乳などに有機塩素系農薬が残留している事実を次々と発表してきています。有機塩素系農薬は脂肪にとけやすい性質があり、食品を通じて体内に蓄積される。
     多量に摂取すればするほど体内の蓄積もふえる。
     日本人のディルドリン体内蓄積は外国人の2倍といいます。
     このことから、日本人は、世界保健機関(WHO)の決めた許容量を上回るディルドリンを摂取していることになる。
     一刻も早く有機塩素系農薬を追放しないと取返しのつかないことになる。
     また残留農薬で死んだ人はいないという批判もありますが、BHCが使用され始めて、20年そこそこ、慢性毒性の強い、これら有機塩素系農薬の害が、いつ現れるかもわかりません。
     しかも、体内でディルドリンに転化するアルドリンは、全国一円で散布しているので、害が出始めた時は、イタイイタイ病などのように限られた地域だけのものではなく、日本人全体が患者になる危険がひそんでいます。
     このように考えて参りますと、いかに農薬の散布をなすべきかを考え、農薬の無散布と天敵の繁殖を3年間も考えて参りました。
     ミカンの天敵はたくさんおりますが、中でも、ルビーロームシ(みかんに黒いススをつけ商品価値が下る)にルビー赤ヤドリコバチ、イセリヤカイガラムシにベタリヤテントウムシ(イセリヤカイガラムシを食べてしまう)、などのすばらしい天敵がいます。
     農薬を散布すれば、これらの天敵も全滅してしまいます。
     天敵が居ることはうれしいことですが、一つだけ困る虫が居ります。
     ヤノネカイガラムシです。
     九州の試験場では、ヤノネカイガラムシの天敵が居るそうですが、私の所には、いる様子がありません。
     このヤノネが天敵で防げるなら、ミカンの予防剤散布はずっと少なくなると思います。
     私は、3ヶ年間、予防をせずにミカンを収穫して参りましたが、ヤノネカイガラムシの天敵を早く見つけてほしいと(居れば送ってほしい)と思って居ります。
     又、ダニ類にも困って居りますが、サビダニ・赤ダニ等の被害のため、最初の年はカンヅメ用にしか使えないミカンばかりだったのが、おそらく何か天敵があらわれたのでしょう、2年目、3年目と、被害がしだいに少くなって来た様に思われます。
     終りに、米のことを一言云っておきます。
     私は、米も予防はやっておりません。
     しかし、ズイ虫等の被害はせいぜい2割位でしょう。
     それは、防除の行きとどいた田甫では7〜8俵は収穫出来ますが、無予防でも5〜5・5俵位は収穫出来るからです。
     いま米作規制がやかましくいわれていますが、農薬をやめてしまえば、それだけでも簡単にその目的は達せられるだろうと私は思います。
     その上絶対安全、安心して食べられます。


16. 野菜も果物もこわい 農薬、体内に蓄積

    使用制限では効果薄い
     21日兵庫県立神戸生活科学センター(神戸市生田区)で開かれた消費者問題研究会で、講師の日本農村医学研究所の松島松翆医師(41)は「日本人の体内にも有機塩素系農薬、有機水銀が多量に蓄積されている。
     早く有害農薬を追放しないと私たちの身体は慢性的に農薬におかされる」と警告した。
     同研究所(若月俊一所長、所員13人)は長野県南佐久郡臼田町、長野県厚生連佐久総合病院に併設されており、松島医師は同病院の健康管理部長。16年前から農村医学の研究に当たっているが、このグループが今年同病院で死んだ16人の遺体を解剖、蓄積農薬を調べたところBHC、DDTなど有機塩素系農薬が全遺体から検出された。
     平均値はBHC0.71(単位はPPM、以下同じ)DDT0.80.DDE(BHCとDDTの混合剤)1.89だった。
     この蓄積量について同医師は「数年前、東北大学でネズミにDDT、BHCを長期投与して蓄積農薬を調べた結果のDDT0.45、BHC0.40に比べ1.5−2倍の濃度だ」と述べた。
     今月14日厚生省はキャベツ、ホウレン草など12食品についてヒ素、BHCなど8農薬の残留農薬許容基準を決め、農林省は農薬の安全使用基準を決定、それぞれ来年6月から実施されるが、同医師は「袋をかけずに栽培したリンゴは厚生省基準のヒ素3.5、鉛5.0の2.5倍ものヒ素、鉛が検出され、レタス、ハクサイなどソ菜全部から有機塩素系農薬が検出されている。
     これらの残留農薬が年々身体に蓄積されてきており、農薬の使用時期、回数を制限しても、有害農薬そのものを禁止し、病虫のみを殺す選択毒性の農薬を開発しない限り“第二の水俣病”が起きる可能性が十分ある」とのべた。
     研究会には約80人の主婦たちが出席していたが「野菜までが人体をおかすのなら私たちは何を食べたらいいの」と青ざめていた。

    (44・11・23 毎日)

    農薬汚染?野菜食べ一家8人精神錯乱 愛知
    【名古屋】24日よる、豊川保健所から愛知県衛生部にはいった報告によると、愛知県宝飯郡音羽町萩、農業、細井三郎さん(45)の家族ら8人が、畑からとったゴボウの天ぷらなどを食べて精神さく乱状態になったことがわかった。
     県衛生部では、畑に埋めて保存していたゴボウが、農薬で汚染され中毒症状を起こしたとみている。
     県衛生部の調べでは、細井さん方で21日よる、一家七人がゴボウ、サツマイモ、ネギなどの天ぷらを食べたところ、30分ほどして細井さんら5人がめまい、歩行困難、うわごとを口走るなど精神さく乱状態となり、近くの音羽診療所で手当を受けた。
     さらに23日から24日にかけて、ゴボウとサツマイモなどの煮つけを食べた祖父の岩蔵さん(92)や親類の2人も同じ症状となり、親類の2人は入院した。
     県衛生部では、残りのゴボウや畑の土などの分析検査をしているが、8人とも、有機リン、有機水銀の中毒症状に似ており?3年ほど前まで、ゴボウを埋めていた畑に余った農薬を捨てていた?岩蔵さんは21日、ゴボウの天ぷらを食べなかったため、中毒にかからなかったが、ゴボウの煮つけを食べて中毒症状を起こしている−などからゴボウが農薬に汚染されたとみている。
    (46・3・26 サンケイ)


17. BHCの発癌性

     BHCで野菜・食肉・牛乳・母乳などが汚染されていることは周知の通りだが、10月6日の第30回日本癌学会総会で発表された、奈良医大グループの研究によると、ラットに660PPMのBHCを24週間投与して全例に肝癌の発生をみたという。
     この量は、汚染として認められる量に比べれば、はるかに大量である。
     しかし、発癌物質による発癌は、その総量が問題で、たとえ1回の量は少なくても、それが長期にわたるときは、ついに発癌するにいたるといわれているから、BHCに発癌性が認められたということは、注目されねばなるまい。

    (日本医事新報46・11・27号 学会見聞記より)


18. ご存じ?食品公害あれこれ バターよお前もか 多量の残留農薬

     大阪市衛研、消費者センター合同調査

     食生活に欠かせないバターに、BHCなど有毒な有機塩素系農薬が多量に含まれていることが9日、大阪市衛生研究所と同市消費者センターの合同検査でわかった。
     しかも原料である牛乳の農薬暫定許容基準にくらべ、ベータBHCが7.6倍、DDTが11.6倍という高濃度。野菜や食肉などの農薬汚染は、すでに明らかにされているが、バターから残留農薬が検出されたのははじめてのことで、大阪市環境保健局は厚生省にたいし、バターにも早急に許容基準を設けるよう要請、同省も乳製品全般についての規制の検討をはじめた。
    牛乳の暫定許容基準
    ベータBHCDDTドリン剤
    0.2PPM以下0.05PPM以下0.005PPM以下

     同衛生研究所と消費者センターが検査したのは国内の乳製品5大メーカーのバター、マーガリン各五品目(46年製造)。さきに牛乳から高濃度の残留農薬が検出されたため、牛乳を原料にしているバターにも多量に含まれている可能性があるとみて、BHC、DDT、ドリン剤(アルドリン、エンドリン、ディルドリン)の含有量について7ヵ月にわたって検出検査をくりかえした。
    バターから検出された農薬
    メーカーベータBHCDDTドリン剤
    A社0.39PPM0.58PPM0
    B社0.51 〃 0.49 〃 0
    C社0.24 〃 0.32 〃 0
    D社1.52 〃 0.44 〃 0
    E社0.46 〃 0.58 〃 0
     まず、検体のバターをビーカーで溶かして脂肪分を抽出、測定したところ原料のほとんどが植物油であるマーガリンには全然農薬が含まれていなかった。しかし、全体の8割まで牛乳から取り出した脂肪分でできているバターは、ドリン剤こそ検出されなかったが、ベータBHCは5メーカー製品すべてから検出され、1キログラム当たり最高1.52PPM、最低でも0.24PPMが含まれていた。
     また、DDTも0.32PPM−0.58PPMと予想以上に高い数値だった。
     バターについての残留農薬の許容基準はまだ設けられていないが、牛乳の暫定許容基準(ベータBHC0.2PPM、DDT0.05PPM,ドリン剤0.005PPM)とくらべると、ベータBHC、DDTとも全製品が基準を上まわり、BHCでは7.6倍、DDTは11.6倍という高濃度なものであった。
     また、同衛生研究所でこのバターから牛乳に含まれている農薬を逆算したところ、ベータBHCは0.007−0.046PPM、DDTは0.0096−0.017PPMで、牛乳の基準をはるかに下回っている。
     このように汚染度が少ない牛乳を使ってもバターに加工すると濃縮されてこれだけの高い濃度を示している。このため同研究所では許容基準にちかい牛乳を原料にすればさらに高い数値がでるものとみている。
     BHC、DDT、ドリン剤は有機塩素系の農薬で、PCBと同じように分解しにくく蓄積される。田畑や山林に散布されたものが作物を通して家畜に入りこむ。しかも脂肪分に溶けやすいのが特徴で、毒性が強く、ネズミに多量に与えると死亡したという実験例がある。
     慢性的症状としては皮下脂肪、内臓の脂肪組織、脳神経に蓄積し肝臓、じん臓を犯すといわれている。こうした有機塩素系の農薬は昨年、製造、使用禁止になったが、蓄積期間が5、6年と長い。また、手持ちの農薬をこっそり使用している農家もあるといわれ、まだ相当量が土壌に蓄積されているとみられる。
     このため大阪市環境保健局では、こんごも残留農薬が作物を通して乳牛に汚染するおそれが強いとして厚生省にこの検査データをおくり、バターについても早急に安全基準を設けるよう要請した。

    早急に特別委ひらき対策
     バターから残留農薬が検出されたことについて、各メーカーが加入する日本乳業協議会の前田恒子事務局長は次のように語っている。

    「まったく初耳だ。さっそく、残留農薬問題で設置している特別対策委員会をひらき、こんごの対策をたてる。また、各メーカー、厚生省とも連絡のうえ、汚染原因を究明したい。協議会としても牛乳、乳製品の農薬汚染を防ぐため、2年前からBHC、DDTなどの全面使用禁止運動を起こすなど努力しているが、残留農薬は土壌での蓄積期間が長く、完全に消滅しないのが現状だ」

    安全基準を早くつくりたい
     厚生省環境衛生局・岡部祥治乳肉衛生課長の話
    「バターの原料にしている牛乳は農薬汚染の少ない東北、北海道産のものがほとんどだし、日本人の摂取量は欧米人にくらべてまだまだ少ない。あまり神経質になる必要はないと思うが、混入量が問題なので乳製品にも安全基準を設ける方向で検討する」

    長期に摂取すれば障害も
     検査リーダー、大阪市立衛生研究所主任、石橋武二医博の話
    「牛乳が汚染されている以上バターにも混入していることは当然考えられるが、予想以上に多かった。急性の症状が出ることはないが、一日10グラムていどを10年以上続けて摂取すれば内臓障害をおこすおそれがある」
    (47・7・10 サンケイ)


19. 半分以上が汚染

    農薬残留東京大阪の野菜
     (高知)東京や大阪で売られている野菜類の半分以上は、残留が禁止または制限されているエンドリンやディルドリンなど塩素系農薬に汚染されていることが、高知県衛生研究所の調査でわかった。
     同研究所の上田雅彦・主任研究員が23日、島根県松江市で行なわれる第20回日本食品衛生学会で発表する。
     この調査は、全国各地のキュウリ、トマト、ナス、ニンジン、ジャガイモ、サツマイモ、キャベツ、ハクサイ、レタスの9種類、132試料を、ことし6月から8月にかけて東京、大阪、高知市内で購入し分析した。
     それによると、0.03−0.29PPMのディルドリンが22例から、また0.01−0.055PPMのエンドリンが30例から検出された。
     9種類の野菜のうちトマトとナスの20例からはドリン剤は全く検出されなかったが、ニンジン、キュウリ、ジャガイモ、サツマイモの85例のうちでは46例(54%)にエンドリンがディルドリンのどちらかが残留していた。
     厚生省の農薬残留許容濃度によると、エンドリンはすべての野菜から検出されてはならない。ディルドリン、アルドリンはキュウリ、トマト、キャベツに限って0.02PPMまで、他の野菜からは検出されてはならないことになっており、今回の調査結果は、これら許容基準を大きく上回っていた。

    栽培はアルドリン使用3年後に
     また同衛生研究所は野菜の残留農薬が土壌から吸収される状況を調べた結果、キュウリなどはアルドリンを使用してから3年以上経過した土壌に栽培しなければならないことをつきとめた。
     これはアルドリンを施して1−4年経過した土壌で栽培したキュウリ20例を調べた結果によるもので、ニンジン、ジャガイモ、サツマイモもほぼ同じと推定されている。このため同衛生研究所は「野菜のドリン系農薬の汚染対策を早急に立てる必要がある」と話している。

    (45・10・14 サンケイ)


20. 農薬中毒3人死ぬ 3人重体 観音寺のみかん園

     【観音寺】15日午前8時半ごろ、香川県観音寺市原町の野田ミカン共同防除施設で、同町、農業、大矢政枝さん(53)が農薬を入れた水そう(タテ、ヨコ、深さ各2メートル)の中をのぞきこもうとして水そうに落ち込んだ。
     このため大矢さんを救おうと農家の人たち5人が、水そうの中へ入ったが、次々とこん倒。近くの三豊総合病院などに収容されたが、同町、農業、松下達さん(50)▽同、松下昭さん(42)▽同、杜照明さん(58)の3人が死亡、同、大矢巧さん(45)▽同、大矢一夫さん(42)▽同、大矢政枝さんの3人は重体。
     観音寺署で事故の原因を調べているが、松下さんらは、ミカンの共同防除と着色、甘味促進のために農薬を散布しようと、この日午前7時ごろから近くの農家の人6人と防除施設の水そうのなかへ石灰硫黄合剤とカーライトを混入し機械でかきまぜていた。
     最初に転倒した大矢政枝さんは、水そうのなかの農薬のまじりぐあいを点検しようとして意識を失ったといっており、石灰硫黄合剤とカーライトがまじりあって化学反応を起こし、発生した有毒な硫化水素ガスで中毒したらしい。
     この防除施設は、38年、農業構造改善事業のひとつとして、付近のミカン農家35人が共同で母神山(標高57メートル)の頂上に建設、近くの20ヘクタールのミカン園の共同防除をしていた。
     香川県薬務課の話では、カーライト、石灰硫黄合剤とも、ミカンの色づきをよくする農薬。カーライトは第1燐石灰が主成分なので、2つの薬剤をまぜ合わすと硫化水素が発生する。この硫化水素ガスを300PPM以上吸い込むと吐き気、けいれん、呼吸困難などを起こし、死亡するという。
     このため観音寺農協や三豊ミカン選果場では、薬剤をまぜ合わせたときは、有毒ガスが出るので、屋内で作業するときにはガスを吸い込まないようにと、農薬の扱い方の講習会を開いて注意。この日も農協から指導員が出かけ、午前8時半に現場に到着したが、松下さんらが早く作業にかかっていたため、事故が起きたという。(サンケイ 48・10・16)


21. 低毒性の農薬

     医学博士 遠藤 仁郎 

     農薬の散布の際、直接、口、鼻。皮膚からはいるほか、食品に付着したり、吸収されて残留しているもの。また、家畜の飼料から肉・卵・乳に出るものなどによってとりいれられ、恐ろしい害をおよぼしていることは、よく知られている。
     けれども、パラチオン(ホリドール)のような猛毒性の農薬や、DDT・BHCや水銀剤などの残効性の農薬の使用が禁止された今日では、もはや、そう神経質にならないでもよかろう。現にパラチオンに代わるスミチオンやサリチオンの毒性は、パラチオンの100分の1にも及ばないし、分解もはやい、というではないか、との楽観論もきかれるようだ。
     しかし、問題は、これらの農薬が低毒性ゆえに、普通薬のあつかいを受けていること。
     そして、農・林業方面だけでなく、家庭の殺虫剤として、蚊・蝿の駆除、庭園や便所、汚物の消毒用として、農村・都市をとわず、ひろくつかわれていること。
     作用は、たしかに緩和だが、排出がおそいうえ、くりかえしているうちに、体内での分解能がおとろえて来る、という特性があることなどのため、中毒例は決して少なくなってはいないことだ。


    青森農村医学研究所の工藤尚義氏によれば(日本医師会編 医学講座 昭和50年版)、

     昭和48年ごろから、手や指のシビレ、メマイ、頭痛。食欲不振を訴える女性がふえており、都市居住者の血液中の有機燐をしらべ、おどろくべき結果がでた。

     そして、こどもには、近視、乱視。視野の狭窄、自律神経失調症、その他の神経障害。
     成人では視神経炎、その他いろいろの神経系の異常。
     女性はとくに抵抗性がよわく、体重減少、月経不順、無月経、不正出血、不妊症、妊娠障害、早・流産。
     また閉経がはやく来る。
     などの慢性中毒症がみられる、という。

     つまり、低毒性農薬とはいえ、少しも油断はできない。なるべく接触の機会を少なくすべきだ。

     ところで、工藤氏は、この中毒の散ろうにグルタチオン剤の有効性を指摘しているが、これは植物性の組織中にひろくあるものであり、緑葉にはことに多いようだから、この場合もつとめて緑葉食・青汁、あるいはせめて青汁だけでも活用すべきであろう(52・1)




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