遠藤語録文字 乾燥青汁ピロサンマーク
土を食う

 食土という風習は、欧州にも、アメリカにも、アフリカにも、アジアことに南方諸地域にも、古くからあり、ひろく行われていたようだ。その多くは、婦人病、ことに妊娠と関係のあるもので、悪阻の予防や治療、陣痛をつよめ、分娩をたすけるため、あるいは乳の出をよくするため、また便秘をさけるため、などに好んで用いられた。
 栄養学者マツカラムは、その著「栄養新説」の中に、「テキサスのクラークスピル近くの黒人は赤粘土を食う。そのまま食うこともあり、かまどで赤く焼いて食う。そして、粘土をもとめて何マイルもあるくくらいだ」と食土の例をあげ、「おそらく、ある無機成分の不足によるのであるう」と説明している。
 さて、この食土と同じ目的――悪阻の嘔吐を鎮めたり、催生・胞衣を下すなど――に好んでつかわれる漢方薬に伏龍肝がある。伏龍肝というのは、いかにも恐ろしげな名だが、実は、多年火で焼かれたかまどの底の土のことだ。これを削って粉にして飲んだり、煎じてのむ。
 以前(今は知らぬが)京都の大学の約束処方集には「伏龍肝煎」が載っており、私どもも、悪阻の嘔吐はもとより、その他の原因による嘔吐にも、よくつかった。もっともこれは、本物のかまどの土ではなく、素焼のかわらけの煎じ汁だということだったが、ともかく、こうした焼土の煎汁にも食土と同じ効能があるわけだ。
 インドでは、同じ目的に水を冷やすために使うアルカラザという薄い瓶をこわして食べるという。
 本草網目には、
     伏龍肝煎は、分娩を促し、胞衣を下す。帯下や、子宮出血その他の出血(吐血・衂血・喀血・血尿)や、遺精、小児の夜啼をとめる。
     また、古かわら(烏古瓦)を漬けた汁や煎汁は消渇(糖尿病などかわきの病気)に。
     ふるい敷石(古磚)の水煮汁はシャックリに。
     黄土の煮汁は赤痢、諸肉、野菌などの毒によい。
 などとあるし、わが民間薬には、
     伏龍肝は嘔吐、産難、中風、発狂、諸中毒(獣肉)菌など。
     また霍乱(はげしい吐潟)や菌毒に、壁土を熱湯に入れて、上清をのむ。
     菌・芋・銀杏にあたったのに、土を掘り、水を入れてかきまぜ、澄んだところ、あるいは、赤土や古壁土を水にかきたてて上澄みをのむ。
 などとある。

 つまり、伏龍肝だけでなく、土の煮汁や泥水の上澄みでもよいというのだ。
 すると、土(生土・焼土)を食うことも、その煎じ汁や泥水の上澄み(地漿という)と同様、粘土の中の水にとける成分、つまりカルシウム、マグネシウム、鉄、銅、マンガン、硅素、その他のミネラル(いわゆる痕跡成分をふくめて)の効果によるのでなければなるまい。
 ところで、私どもの一般食でも、ミネラル分が不足していることはよく知られるているところであるが、妊婦では、嗜好の変化のため、ことに偏食になりがちであり、いっそうミネラル不足に陥りやすい。そこで、健康の不調をまねき、ひいては妊娠障害をおこしやすくもなっているわけであろうが、こういう機会に、土を食ったり、土の煎じ汁を飲むことは、マツカラムの説くとおり、おそらく、不足しているミネラル分の補給というところに意味があるのであろう。
 寺院や神社でいただく「おこうずい」や、何とか霊泉といった洞窟のたまり水が、しばしば著効を奏するのも同じで(あるいは特殊成分によるのかも知れないが)、少くとも、ただ暗示的、心理的のものとばかりはいえないだろう。
 こう見て来ると、この食土は、ちょうど、農家が地力回復のためにする客土や焼土に相当するのではないだろうか。農家では、土地がやせて来ると、堆肥を施し、緑肥を入れる。それでも足らなければ、客土したり、焼土する。客土は、山の新しい土(ミネラルにとんだ)を入れることで、焼土は、土を焼いて、有機分をへらし、不溶性のミネラルを利用しやすくするのだ。
 私どもは、不足しているミネラルを補うために野菜や果物を食べるが、それは、ちょうど、堆肥や緑肥にあたる。しかし、これら野菜や果物のミネラルも、さいきんの不自然不合理な耕作法によって、しだいに乏しくなりつつある。
 そこで、私どもは、自然農法(堆肥緑肥を十分に施した)による良質ナッパで、これを補おうとしているわけだが、この食土は、こうした植物の力をからずに、いきなり口の中に客土したり、焼土を入れる、といったものだ。だから、この際の土は、白陶土・カオリン・アドソルビンなどという精製品ではなく、夾雑物に富んだ自然土の方がよいわけだ。
 掘って来た粘土(赤土・黄土)そのままを食べるか、水にかきまぜた泥水やその上澄みをのむ。
 また、焼土(伏龍肝)・炮烙・カワラケ・素焼の鉢・屋根瓦・レンガなど、何でもよい、粉にしてのみ、煎じ汁にしてのむ。
 私どもの健康は、栄養のバランスのよし悪しにあることはいうまでもないが、それとともに、食べものそのもののよし悪しにかかっている。
 そして、食べもののよし悪しは、栽培土の成分のいかんに左右される。
 この大切な土の成分を、もっとも豊富にもっているのが良質の緑のナッパだが、土を食うのは、いま一歩さかのぼって、直接に土そのものに求めようという、ながい経験がおしえた知恵ともいうべきであって、決して、いわれない野蛮や風習とばかり、わらい去るべきものではない、と私は思う。

<(1970・10 遠藤)健康と青汁第170号より>




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