年がよったら(1) |
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できることなら、健康で長生きしたい。人なみ以上の長生きは望めないまでも、生きているかぎりはマメにすごしたい、とは誰れしものひとしく願うところ。 外邪との戦い 人生は外邪との戦い。戦に勝つ秘訣は、孫子のいわゆる「彼れを知り己れを知れば百戦殆(あや)うからず」。 すなわち、彼れ(健康上有害なことがら)、とともに己れ(老人の特質)を、よく知ること。 老人の特質 老人のからだは、つかいふるした機械。 病気があればもとより、達者だと思ってはいても、どこかにガタが来ており、健康の幅はたしかに狭くなっている。 そして、病気にたいする抵抗力(防衛能)も、回復力(治癒能)も、ともによわっている。 大事に使う そこで、心得の第一は庇護。万事ひかえめ、無理をせず、大事に扱う、ということになる。 しかし、あまり消極的にすぎては、却って体力をよわめ老化をはやめるから、庇護を主とし、適宜の刺戟を加えて、なるべく能率的につかうこと。 年を忘れる 「年を忘れろ」、「年寄りくさくなるな」、とよくいわれる。 しかし、これも程度によりけり。年だ、年だとふけこんでしまうのは、もちろんよくない。さりとて、いかに若い気ではいても、年はやはり年。元気にまかせて無理を重ねると、思いもよらぬことにもなりかねない。 年には、こだわりすぎてはならないが、忘れすぎてもならない。 たのしい毎日 腹をたてたり、心配や気苦労ばかりしていると、はやく年をとる。 せいぜい気楽にのんびりくらしたい。しかし、あまり平穏無事で退屈すぎ、刺戟がなさすぎるのも考えもの。 定年退職して、ひまになると、したこともない病気をしたり、急にふけこむ。 だから、あまり深刻でないことはむしろなにかある方が幸せかも知れない。 それはさておき、うちこめる仕事か趣味はもちたいもの。 心のはり そして、生きがいが感じられ、はりきって来ると、からだ中の生気がよみがえり、体力・抵抗力ももり上ってくる。おさない孫の面倒をみなければならない羽目になると、老人夫婦がたちまち元気になる、とはよくあることだ。 99才の天寿を全うされた矢野仁一先生(京大名誉教授)は、「自分でなければ出来ない仕事をもつことが長生きのコツだ」といわれ、先生ご専門の中国革命史の著述にうちこんでいられたが、その完成後、約半年、燭火のきえるように大往生された。 こういうことは、われわれ凡人にはむつかしいだろうが、絵や書をかいたり、川柳、俳句、短歌、あるいは土いじり、盆栽、菜園つくり、家内外の清掃など、やろうと思えば何でもあろう。 よく、「忙がしくて年をとる暇がない」といわれるが、これほどのしあわせはあるまい。 運動 「動く戸枢はむしばまず」、 「ころがる石には苔つかず」、 「年は足から来る。」 運動が不足すると、体力はおとろえ、老化をすすめる。 病気や怪我でねこむと頭までボケてしまう。運動すると、血行がよくなり、代謝がさかんになり、血がきれいになるから、肉体的にも精神的にも活力を増し、若返ってくる。 ただし、はげしすぎるとかえって体力・抵抗力をよわめる。つねに、体力に応じた運動。疲れない、疲れの残らない程度の運動に心がける(老人は、疲れにも鈍感である点に注意)。 体操よし、散歩よし(万歩あるきでもよし、用事があっても無くても、ともかく歩く)、走るもよし。軽スポーツ、軽作業(なれていれば重労働)もよかろう。 姿勢 背骨がまがると病気するともいう。腰をのばし、いつも姿勢をよくする。 また、背骨をうごかす体操。 発声 大声を出す。よい運動であると同時に、呼吸による浄血効果、精神的効果もある。歌をうたう、詩を吟ずる。謡、浪曲、義太夫。祝詞、念仏など。 また、大声を出して笑うのも大いによい。 呼吸 深呼吸。ただ大きく呼吸するのも、坐禅や静坐の静かな深呼吸でも、また、大欠伸でもよい。 「よく呼吸するものはよく生きる」。 気管支、肺 老人はカゼをひきやすい。抵抗力をよわめ、こじれて肺炎でもでてくると命とりになる。寒さにならす(なるべく薄着し、皮膚をまさつするなど)とともに、気管支、肺を大事にする。 それには、きれいな空気を吸うこと。大気汚染をさけ、タバコをやめる。 これらは、ともに、気管支や肺の抵抗力・防衛能をよわめ、バイ菌やビールスにおかされやすくする。 ほこりや寒さ、乾燥を防ぐにはマスク。人混みの中、ことに病人のところでもマスク。 そのうえウガイ。ことに鼻のウガイ(ほこりやバイ菌・ビールスのたまる鼻の奥を洗うため)の励行。 コヨリで鼻をくすぐり、クシャミして鼻水を流すのも、カゼのよい予防法だ。 平素からやれば鍛錬にもなる。 ねむり 老人は疲れやすく、その回復がおそい。十分ねむること。 むかしから、早寝・早起きがいわれているが、どうも、これは老人の自然。 つまり、早くねむくなるから宵寝し、それだけ早く目がさめるだけのことのようだ。 だから、少しもこだわるには及ばない。おそ寝ぐせのものは朝寝すればよい。 要は、疲れが完全にとれ、気持ちよくおきられるまで、十分寝ること。睡眠時間の長短、また同様、きまりはない。昼寝も、結構。 但し夜の眠りが妨げられるなら、注意する。不眠を訴える老人も少なくない。 寝つきがわるい。夜中に目がさめ後が寝つかれない、夜どおし眠れない、などいろいろあるが、多くのばあい心配は無用。 ことに、食事がふつうにおいしく食べられるようなら、必要なだけは寝ているのだから、少しも気にすることはない。 寝つきのわるいのには、寝がけの酒一杯も結構。また、寒いときは入浴後すぐ寝る。 食事 いつもおいしく食事できるのは健康の徴には相違ない。しかし、老人は、消化能、吸収能、利用能、解毒能、排泄能など、ともにおとろえているので、食べすぎないこと(少食)。 ことに、現在の習慣食は、白米飯、肉類、卵、糖、酒などにかたよった、栄養的には不完全な贅美食になっており、有害有毒食品も少なくない。 しかも、とかく、食べすぎになりがち。ために、代謝の不完全、血のにごりをまねき、体力・抵抗力にも、また、とくに老化現象にとっても、不利の影響をあたえている。 高血圧、動脉硬化、糖尿病、癌などの多いのは、そのためと思われる。 老人食の理想 老人食の理想は、少食ですみ、しかも、栄養素は十分であり(完全食)、安全食でもあること。 そのためには、主食には、栄養的にも安全性にも問題がなくもない米・麦よりは、ソバやマメ・イモ。蛋白食にも、同様、肉・魚よりは大豆ものがよく、それに、安全な良質ナッパ(ビタミンおよび吸収しやすいかたちのミネラルにもとんでいる)を主とする野菜・山菜・海藻をそえ、ナッパはなるべく多くを生で食べることだ(青汁は、それを可能にする簡便法)。 なお、野菜や果物の必要性は、いぜんからいわれていたが、良質ナッパ以外では、栄養のバランスはとれにくい。 また、良質ナッパにしても、少々の量ではダメで、主食・蛋白食にたいし2〜3倍は必要。 つまり、理想的の老人食は、緑葉食・青汁、イモ・マメ・ナッパ・青汁食が適当で、せめて、青汁だけでもうんと(少なくとも1日3合、もとのナッパ750グラム以上。多ければ多いほどよい)のむことだ。 そうすると、栄養のバランスは完全にとれ、ミネラル(老人は不足しがちなカリウムの多いことも有利)・ビタミンには十分余猶があり、したがって少食ですむうえ、食品公害もさけられるから、代謝は完全におこなわれ、血はきれいになり、からだ中のすべての組織・臓器のはたらきがよくなり、体力・抵抗力を増し、老化も防がれる。 肉食(動物食)の可否 ところで、緑葉食・青汁、イモ・マメ・ナッパ・青汁食というと、それ以外にはなにも、ことに肉や魚や卵などは食べてはいけないように誤解されがちだ。が、決して、そういう窮屈なことをいうつもりは毛頭ない。 要は、なるべく安全で完全な食にしよう。そのためには、少なくとも、今の時点では、こうするほかなかろう、というまで。 また、ナッパ・青汁で、ミネラル・ビタミンに十分の余猶をもたせれば、主食にも、蛋白食にも、何を食べてもよい(安全であり、また、完全食の範囲内でだが)から、むしろかえって自由になるともいえる。 なお、老人では胃のはたらきがおとろえており、植物性蛋白の消化がよくないので、動物蛋白も欠かせない。 「年七十肉にあらざれば飽かず」(孟子) けれども、獣肉類(牛・豚・羊など)はなるべくさけ、鶏・魚・卵・乳などにすること。そして、同時にかならずバランスをみださないよう、十分の良質ナッパ・青汁をそえること。 調理調味 調理はなるべく簡単に、ただし、咀嚼能の点を十分考慮すること。調味はうすく。食塩がすぎると高血圧、胃癌。砂糖がすぎると肥満、糖尿病、高血圧、動脉硬化(血液脂肪、コレステロールを増す)、結石、化膿症などを原因しやすい。 脂肪 バタ、牛豚脂はひかえ、なるべく植物油にする(これとて過ぎないよう)。 サラダの調味には、むしろ、黄粉、スリ胡麻、南京豆などにする)安全性の点から)。 ダシ これも安全性の点から、化学調味料よりは、椎茸、昆布、カツオブシなど。 (以下次号)
<1977・9 健康と青汁第253号より>
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