遠藤語録文字 乾燥青汁ピロサンマーク
くすりと健康

 毎年10月の中ほどに、厚生省が音頭をとっている催しに「薬と健康の週間」というのがあります。
 薬の正しい使い方とか、毒劇薬にたいする注意といったものがうたわれています。農薬や麻薬の害に悩まされている当今のこと、それらの正しい認識や、危害防止に役立つことは、まことに結構なことです。けれども、一面、こうした運動は、うっかりすると薬で健康を守るというか、薬なしでは健康は得られぬし、病気の予防も出来ぬといった、薬剤依存観念をうえつける結果になりかねぬのではないか、と私はおそれます。

 薬はたしかに有難いものです。もちろん無ければなりません。しかし、それだけでやって行けるものでもありません。昔の人は、「薬は気の偏なるもの、以て生を養うにたらず、病なきに薬を服すべからず」と戒めたものです。それは、昔の薬には劇毒薬が多かったせいもありましょう。そして、今では、安全で、しかも病気を予防したり、健康を増進する薬も多いのだから、ということでもありましょう。

 さて、病気の予防の薬といえば、ワクチンや、殺菌剤や、抗生剤などですが、ワクチンはそう頼りになるものばかりでもありませんし、たまには副作用もあります。殺菌剤や抗生剤では、耐性菌(薬に抵抗する菌)ができて始末におえなくなったり、おそろしい反応がおきたり、あるいは、腸内細菌の変化で、かえって体抵抗力をよわめたり、効く薬のないバイ菌やカビがはびこったり、などといったことにもなります。
 また、健康増進には、やれビタミン、やれミネラルやれ何、やれ何と、ずいぶん沢山のものがいわれ、その総合剤が数多く売り出されています。そして、これらはすべて安全な筈の薬です。しかし、考えてみれば、これらはすべて、もともと薬ではなくて、食物としてとり入れるべきもの、そのとり方が足らぬから健康をそこねたり、病気になって薬としてのまねばならなくなるので、食物が完全ならば、その必要はないものです。また、食物であれば、それ以外に、まだ科学でわかっていない、しかも大切な成分がそろっているので、一層よいわけです。ですから、本来、これらは食べるべきもので、薬としてのむべきものではありません。

 なお、食物としては全く無害のものが、薬としてのむ場合には害をなすこともないではありません。たとえばビタミンAは、食べ物からとる場合は少しもさわることはないのですが、薬剤になっているAは往々中毒します。子供が高単位のビタミンのはいっている糖衣錠をお菓子とまちがえて食べたり神経質な母親が効を急いでのましすぎたりしてAやDの過剰症(中毒)をおこした例は、専門誌上にもチョイチョイ見うけられます。
 また無難な筈のB1などでも、そればかり余り大量にとりすぎると、B群ビタミンの仲間の他のビタミンとの間の均衡がやぶれて、かえって妨げとなることもあります。

 こうみて来ると、薬というものは真の健康のためにはいらぬもので、病気になってやむを得ずのむのにすぎぬことは、今も昔もかわりはありません。ところで、日本人ほど薬の好きな(ことに注射がすき)国民はないと、世界中のものわらいになっているほどですし、そのための失費とて馬鹿になりません。薬なしでは健康は得られぬとか、守れぬといった錯覚をあたえ、あるいは、それにいよいよ拍車をかけるようなことをやるよりは、もっと抜本的な健康促進運動がありそうなものだろうにと、この週間が来るたびに私は思います。

<1961・10 健康と青汁 第62号より>




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