遠藤語録文字 乾燥青汁ピロサンマーク
 クシャミの効用

 クシャミは、鼻腔内の刺激によって中枢が興奮し、反射的に気道(鼻腔、気管、気管支)の分泌の亢進と、強い吸気がおこり、ついで、横隔膜と腹筋のはげしい収縮による腹圧の上昇とともに、強い気流を噴出するもので、本来は気道内にある異物を除くのが目的だ。
 ところで古方には、このクシャミを利用した療法になかなか面白いものがある。

 腹圧上昇によるもの
 鼻腔や気道の中の異物だけでなく、食道につまった物を除くためにもクシャミが応用されている。
 本草歌に、「餅などが咽喉へつかえて苦しまば、紙撚(こより)を鼻にくしゃみさすべし。」
 ヒポクラテスは、分娩の後産を促がすために、鼻に藜蘆(リロ)根をあてて噴嚏せしめ、同時に鼻口を圧えさせている。

 分泌亢進によるもの
 鼻腔内の清浄法として杏林内省録に、
 「医便に、温疫の家に入りたる後、紙撚を以て探り、深く入れ、噴嚏せしむ、」とある。
 温疫といえば流行性熱病のことだから、さしあたり流感のようなものだろう。
 古方では、その予防策として、その家にはいった後でクシャミをして鼻腔内を掃除しているわけだ。
 こういう流行病には、病原体が鼻腔や咽頭から侵入するものが多いことからみて、今では精々ウガイくらいしかしていないのに比べ(これでは口腔と咽頭部だけしか掃除できない)、古方の方が(鼻腔まで掃除するのだから)ずっと合理的だといえそうだ。

 浄血法として
 古方では汗吐下(発汗・嘔吐・潟下)の三方が浄血法として重要視されているが「鼻涕も嚏も皆吐剤の理なりと張子和はいへり」(蘭軒医談)で、クシャミも吐方の一とされた。
 ヒポクラテスも、クシャミを頭部の排泄法だとしている。

 健康法として
 吉林内省録には、また、「前備の国学者萬波辨吉なる人、壮年より此の術(紙撚でクシャミをすること)を行って、耳順を過ぎても無病安健なりしは、即ち予が目撃する処なり。
 この法を貧民に授くるも亦仁術の余緒にして、摂生の一端ならん」とあり、健康法でもあるらしい。

 中枢刺激法として
 解剖学的に、鼻腔は脳幹の中枢に近く、うすい骨で境するだけだし、淋巴も交通している。
 そこで、鼻腔に入れた薬物は中枢に達しやすいというので、古方では
 卒死を救う法として、噴嚏剤が鼻腔内に応用されているし、ヒポクラテスは、「吃逆(シャクリ)はクシャミがおこれば治る」といっている。
 また中枢マヒや痙攣へ強直や牙関緊急=痙攣で口のあかね状態などにたいしても、はげしいクシャミをおこさせている。
 クシャミをおこす方法として、古方では随分の劇薬がつかわれているが、無難なものは、羽毛や紙撚でくすぐることだの、胡椒末や唐辛子粉を吹きこんだり、火にくすべて煙をかぐのもよかろう。
 なおパスカルは、「クシャミは霊魂のあらゆる機能を中絶させることに於て仕事に似ている」といい、野乃舍随筆には、クサメの語原について、「クサメは休息萬命と云う呪文の転音。按ずるに、休息萬命をつづめればクサメとなるなり」とあるから、どうやら気分転換といった意味もありそうだ。
 いずれにしても、アクビと同様、クシャミもまた、なかなかもって、おろそかにはならぬもののようだ。

<1965・10 健康と青汁 第110号より>




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