呼吸(の効用) |
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浄血効果 呼吸の本来の任務はガス交換――空気中の酸素をとり入れ、血液中の炭酸を排出することだ。が、それとともに、種々の揮発成分が排出される。 つまり排泄作用があるわけだ。 アルコール、エーテルも出る。 ニラ、ニンニクを食べると、息がくさくなる。 テレビン油をのむと、スミレの花の匂がするというので、おしゃれに飲むことが流行したこともあるそうだが、これもそれ。 また、腎臓から出るべきものや、腸内で出来る分解産物も出る。 これは、肺が、腎臓や腸の働きを助け、あるいは、その代りをしているともいえるもので、古医は、肺や腎と腸とは相表裏している。とこれを表現している。 尿毒症では、息が尿の臭をおび、肝臓の病気で肝臭をおびるのも、その現われ。 糖尿病昏睡で腐ったリンゴ臭がするのは、異常代謝産物のケトン体が出るため。 この糖尿病昏睡の際には、その他、特有の非常に大きな呼吸が現われるし、尿毒症その他でも、往々呼吸が大きくなる。 呼吸のリズムや深さ、大きさは、延髄(脳の下部、背髄につながる部分)にある呼吸中枢で調節されており、血液の酸性度が上ると、刺戟されて興奮し、呼吸が強く、深く、大きくなる。 運動して息がはずむのは、運動によって血液の酸性度が急にたかまるからだし、糖尿病昏睡の大呼吸は、ケトン体という病的酸性分が出来るため、また、尿毒症その他でも同様、血液酸度がますためだとされているが、一方からみれば、これらの際呼吸が強まるのは、血液中にたまった酸性分=有害成分を排出し、血液化学状態の正常化をはかろうとする、つまり、血液を浄化しようとするもの、すなわち、目的にかなった自然の働きの現われというもの。 いずれにしても、呼吸には、本来の任務であるガス交換だけでなく、同時に、有力な血液浄化機能があるわけだ。 鎮静効果 血液の酸性度がたかまると、呼吸中枢だけでなく、神経系一般の興奮性がたかめられ、ものごとに感じやすくなる。 そして、呼吸をさかんにすることによって、血液反応が正常化されると、呼吸中枢と同様、他の神経系にも鎮静的にはたらき、興奮性が低まり、安定して来る。 胆石や腎石その他の痛みのとき、自然に大息をつく。 これは、痛の際の反射的の現象とされているが、それだけでなく、この神経鎮静作用を目的とした本能的の現象ともいえよう。 また、呼吸で頭痛やメマイにもよいことがあるし、高血圧や動脈硬化症の間歇性跛行(歩いているうち痛くて歩けなくなり、休むとまた歩けだすというもの)などにもよいという。 日常深呼吸をしているもの――声楽隊、僧侶、神官などには高血圧が少いそうだし、毎日3回、5分間づつ深呼吸をすると、2〜3ヶ月で効果が出る、などといわれているのも、呼吸により、血液性状の正常化で、血管の神経の興奮性を鎮め、細小血管の病変がとれ、血行がよくなるためだろう。 精神統一 試験の時、競技のとき、あるいは綱渡りや、ナイフの曲投げ、ピストルの曲射などのとき、深呼吸をするし、座禅や静坐で呼吸をととのえる。 ともに、気分を落つけ、精神の統一をはかるためだ。 機械的効果 呼吸運動は、また、機械的に胸部や腹部の臓器の働きをたすける。 胸では、肺の活動をつよめることはいうまでもないが、心臓にも影響する。 吸気で胸をふくらますと胸腔内は陰圧になるので、心臓の拡大をたすけるし、呼気で胸が縮まると、胸腔内圧がたかまるので、心臓からの血液の駆出をたすける。 そして、30分から1時間毎に、数回の深呼吸をすると、ジキタリス(強心剤)と同様の效果があるとさえいわれている。 心臓衰弱で呼吸がはずむ。これは、肺のうっ血のための呼吸能の減弱のためだが、呼吸のこの強心效果をねらう合目的々の自然の働きともいえよう。 腹では、胃、腸、肝、腎などの働きをすすめる。 深呼吸によって腹壁が緊張すると、腹部内臓にうっ滞している血液が駆出され、腹部ならびに全身の血行がよくなる。 腹壁の運動によって胃腸管は機械的に刺戟され、働きをすすめられ、消化をたすけ便通がよくなる。 また、力を入れて横隔膜をおし下げることで、肝臓を上から圧迫し、腹壁を凹まして力むことど、肝臓を下から圧迫する。 こうして、肝臓は上下から圧迫されることで、血行をたすけ、胆汁の排出をよくし、働きをたかめられる。 腎臓にもまた、同様の効果が想像される。このように、呼吸によって、血液は浄化され、神経の鎮静、精神の安定、胸腹部臓器の働きをたかめるなど、一般機能をよくし、体抵抗力を強める。 エジプト、インド、中国の古代から、呼吸が健康法とされ、精神修養法、また治病法として応用されている所以でもあろう。 ところで自然生活では、清浄な大気の中で十分運動することで、呼吸は常に極めて満足に行われる。 しかし、運動の不足、心神過労のうえに、美贅食の飽食、また環境の悪化(大気汚染、不浄化)している今日の文化生活では、血液の酸性化はいやが上にたかまり、しかも、その慢性化のため、呼吸中枢はしだいにこれに慣れ、興奮性を弱め、呼吸はいよいよ不十分となり、血液化学状態はますます不健康化するという悪循環をくりかえし、健康度の低下、罹病素因の醸成、成人病多発を原因し、治療上にも不利の影響をあたえていることだろう。 「最もよく呼吸するものは健康美と幸福とを得る」といわれているが、ともかく、もっと呼吸を強化する工夫が望ましいわけだ。 深呼吸をやる。 それも、いろいろの健康法に規定されているものでなくとも、ただ深い呼吸をすればよい。 また、つとめて運動する。運動をはじめるとともに呼吸は強められ、2〜3分で最高にたっし、その後殆んど恒定的につづく。 たとえば、中等度の行進や緩速(時速9キロ)の自転車では安静時呼吸の約3倍。 登山(1時間2.5キロ前進六四米上昇)で約6倍。 水泳(摂氏15度の静水中ふつうの遊泳)で約8倍、 になるといったぐあい。 また、大声をはりあげて唱い、朗読し、気合をかけるもよし、大いに笑うのもよい。 いずれも呼吸をさかんにするよい方法であり、したがって、すぐれた健康法であるわけだ。 <1969・1 健康と青汁第149号より>
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