遠藤語録文字 乾燥青汁ピロサンマーク
健康土つくり(痕跡要素の補給)

 植物の生育に必要な肥料成分には、いわゆる主要成分(窒素・燐・加里・石灰・苦土など)のほかに、痕跡成分(痕跡要素)といわれるミネラル分がある。これは、ごく微量――あるかないかの痕跡程度にしか必要ではないが、これ無しには植物は満足にそだたない、というもの。ふつう、鉄・銅・亜鉛・マンガン・モリブデン・硼素などがあげられているが、植物に見出されるミネラルは60種以上にも上っており、その1/3は必須だというから、まだまだ多くのものがあり、それら同士の間にもまた複雑な相互関係があるようだ。そして、これらは、同時に動物(人間をくるめて)にとっても、同様、大切であることが、しだいにわかって来ている(鉄・亜鉛・銅・沃素・バナジウム・マンガン・クローム・モリブデン・コバルト・セレンなど)。

 ところで、これら痕跡成分は、現在、わが国の耕地の多くで不足して来ている、という。というのは、
 痕跡分が栽培作物によってとり去られること。雨水とともに洗い流されたり、地中にふかく沈下してゆくこと(約1米の深さのところに集積している)。などのため、表層耕土にはしだいに乏しくなり、ために地方の低下をもたらす結果となっている、というのだ。そこで、肥料が問題になるわけだが、以前よくつかわれた糞尿(人糞、牛馬鶏糞)・油粕(ナタネ油粕、大豆粕)・魚粉などの有機肥料では、窒素・燐・加里などとともに痕跡要素も含まれているので、それらが施用されている間には、痕跡成分の目立った不足を招く心配はなかった。それが、さいきんのように化学肥料が主になって来ると、これらが、いずれも、殆んど主要成分だけに限られているため(いくぶんの痕跡分の配合されたものも無いではないが)、その使用がさかんになるにつれて、痕跡成分と主要成分の間にアンバランスを生じ、耕地は肥沃になりながら、作物には病的徴候があらわれる、といったことになって来た。すなわち、そこに出来る作物は、外観はいかにも立派だが、質的には劣り、栄養分ことにミネラル・ビタミンが乏しくなり、味もよくない上に軟弱で、病害虫害をうけやすい。そこで、強力な農薬が必要となり、その汚染もさけられない。

 さて、動物の健康は、その飼料の生ずる土壌のミネラル分に直接つながっているのであり、こうした、ミネラル分の不足した不健康な(質的に劣るのみならず、あるいは有害であるかも知れない)作物で飼養さる家畜は、本当に健康ではありえないし、その供給する食品(肉・卵・乳)また同様。あまつさえ、食品加工のすすむにつれて痕跡成分の失われる度合は、しだいに増す傾向にあり、したがって、これら不健康的農・畜産物に依存するわれわれの健康上にも、不利の影響はまぬかれない道理。
 そのうえ、農産・畜産・水産に使用される薬品。加工・貯蔵で添加される薬品類、あるいは医薬品の乱用、さらには、水にも空気にも危険(公害)がいっぱい。たとえば、粉塵や水によってとり入れられるカドミウム・鉛・水銀の量また、工業化の進展とともに増大するといわれているが、このカドミウムが痕跡成分の作用に妨害的にはたらくなどの点からも、条件はますます悪化しつつあるわけだ。
 かように、食品そのものが劣質となり、あるいは有害化されている上に、その摂り方また甚しく偏っており、全体として不完全きわまる栄養ともなっている。これでは、健康を維持することだけさえも困難で、医学のめざましい進歩にも拘らず、難治〜不治の慢性疾患がふえ、あるいは新しい、しかも診断・治療とも困難な病気まであらわれる始末で、国民健康の危機といっても、少しもいいすぎではない状態になっているのも、あながち不思議ではない。

 いまやわが国は未曽有の繁栄を誇っている。しかし、それと同時に、多数の病弱者と尨大な医療費(昭和44年の医療費は、実に、国民総生産の5%にあたる2兆圓もの)をかかえているのだが、はたして、これで本当に幸せといえるだろうか。また、このままで、はたして、いつまでこの繁栄をつづけることができるだろうか。ふかく顧みなければなるまい。

 これに対処する方策も、いろいろ考えられているようだ。
 しかし、ただ、申訳だけの公害立法や、医療機関・福祉施設の拡充整備、もしくは新治療法の開発といった、姑息的な施策だけでは、到底、根本的に解決しうるものではない。何としても、まず、国民全体の健康化がはからねばならぬ。しかも、その前提となるものは健康(良質安全)食品の供給であり、その根底となるものは土壌の改善。ことに痕跡要素の補給による健康耕土つくりでなければならぬ。
 さて、この意味での地力回復法には、従来、篤農家の間で行われていた
  1.  深耕(1米内外の天地返しによって、沈積しているミネラル分の掘りおこすこと)
  2.  客土(ミネラル分にとむ山の赤土ことに処女土、または池・沼・溝・湖・海の沈泥を入れること)
  3.  緑肥・堆肥と草木灰の施用、などがある
 いずれも有力な総合的ミネラル供給法であるが、人手不足の甚しい現在の農家では、1・2ともに不可能。  いくらか可能性のあるのは、精々3だけであろう。しかも、薪や炭のつかわれなくなった今では、木灰の使用もまず不可能にちかい。

 さて緑肥・堆肥には、山野の草や若木の小枝、落葉、田畑の境界や畦畔の草、あるいは海・河・沼・湖の藻などが施用された。山野の、ことに処女地の草木は、栽培物よりもミネラルにとむこと。ことに根の深い草木は深層のミネラルをも吸収していること。痕跡ミネラルは植物の種類によって含まれ方がちがっていることなどから、栽培物(稲わらなど)よりも山野自生の草木を種々とり合わせる、という昔の人のやり方は全く合理的であったわけだ。また海藻は、すべてのミネラルにとむ海水中にそだつものだけに、あらゆるミネラルの良給源だ。なお、これら緑肥・堆肥は、草木灰が単にミネラル補給に限られているに反し、同時に、土壌菌の繁殖をさかんにすることにも役立つので、より有利であり、主要成分源として糞尿・油粕・魚粉などが併用されれば、さらに有利なわけ。以前(少くとも30〜40年まえまで)は、肥料といえば、すべてこうしたものばかりで、その他には、石灰を施すだけ。化学肥料などといったものは、少しもつかわれなかった。しかも、作物の出来はいつも上々。味もよかった(養分にとむ証拠)し、病虫害にも強かったので、今日のような猛毒性の農薬をつかう必要は、さらになかった。そして、それを食べる家畜も人間も、頑健そのものだった。これに戻すのだ。

 もっとも、その実行には、莫大の量の材料を必要とし、小規模の家庭菜園はともかく、ひろく一般の実施には、ことに近接し採草地のないところでは、材料供給の点からだけでも容易なことではない。
 けれども、国土の3/4は山であり、4面は海だ。もし国をあげて遊休山林原野の草木や海藻の利用をはかるならば、決して困難でも不可能でもあるまい。粉砕し、細菌処理によって促成腐熟堆肥とし、(粗材は動力源の燃料としその灰も利用)。適宜に圧縮、団塊にすれば輸送にも便利だ。こうした堆肥を大々的に、かつ安価に製造、供給する機関の設置こそ目下の急務というものではないだろうか。そして、いま一つ。少くとも1米の天地返し可能の耕転機を全国に配置し、全耕地に周期的(3〜数年に1回)の深耕を実施すること。

 ともかく、こうして地力を回復強化し、化学肥料・農薬依存の、増産のみを目的とする不健康農法から脱却し、真に健康的な自然農法を復活、安全かつ良質の食品を供給しない限り、また、空気・水の公害にたいすると同様、すべての食糧についても(食品公害)、健康優先の方策(行政的にも企業的にも)が講じられない限り、わが国の運命は、やがて、国民の健康崩壊という破局に逢着することもさけられないであろう。

<(1972・1 遠藤)健康と青汁第185号より>




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