胃下垂 |
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こん度は何にしようかと考えていたら、胃下垂だといって、大変心配して来た人が二三人もつづいたのでこれにすることにした。 胃下垂だとか、胃腸下垂とか、内蔵下垂などというのは、腹の内蔵が下がっている状態でほんとの病気ではありません。しかも人間にだけしかない状態です。 四足獣は同体が横になっていますから、この心配はないのですが、人間は直立したので、内蔵を釣っている筋ゃ、おし上げているささえが弱いと下るわけです。ですから、たいがい細長い体つき(虚弱体質)のものや、何かの原因で急に痩せた人にあるものです。 しかし、たとえ胃や腸か下がっていても、何ともない 何の故障もないのが普通で、医者にかかったり、レントゲンでしらべたりして、はじめてわかるといったこともあります。 けれども、また中には色々と苦痛を感じて、ひどく悩まれる人も少なくありません。これには、胃や腸の弱いことも多少は手伝うのですが、多くは感じやすい、つまり神経が過敏なためで、近頃の言葉でいえばノイローゼです。 いいかえれば胃や腸のほんとうの病ではなくて、胃が悪い、腸が弱いと気で病んでいる病気---これが文字通りの病気といえばいえましょうが---です。 ですから、胃や腸の下垂で苦しんでいるものはみんな神経質な人です。 どうも胃の調子がよくない、つかえる、もたれるなどと気になり出す。 心配になって医者にかかると、胃が下がっているといわれる。レントゲンで診てもらうともっとひどく云われる。(レントゲンで検査するのにつかうバリウムは重いものなので、胃はうんと下るから)。やっぱり胃下垂のためらしいと思い出すと、次第に亢じるように感じられ、飯ではいかんのだろうと粥にしてみる。それでもまだ変わらぬ。重湯にする。それでもまだ苦しいからと絶食したりながい間断食したりする。 もともと痩せていたのがますます痩せる。胃の支えになっていた腹の中の脂肪も、外からの突っ張りになっていた腹の皮の脂肪もなくなって、いよいよ腹の力はたよりなくなり、食後の苦痛は一層はげしくなる。といった調子でだんだん食う気力もなくなり、偏食は甚しく、逆に骨と皮にまでやせてしまい、ほんとの病気(栄養失調症)になってしまう人もあります。 胃や腸の下垂はほんとの病気ではありません。からだの弱いためです。からだと同様胃も腸もが弱いだけです。弱いからだでも、いたわると同時に、正しい食養をとり鍛練を加えることによって強く丈夫にすることができます。胃腸でも同じです。
(1956・11:遠藤仁郎)<健康と青汁10号より>
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