遠藤語録文字 乾燥青汁ピロサンマーク
 歯固め
 歯の鍛錬法として、昔の人は、「歯を叩く」とか、「歯木をかむ」とかいうことをすすめています。「歯を叩く」というのは、歯をかみ合わすことで、
       養生訓(貝原益軒)には
        「歯はしばしば叩くによし。歯をかたくし、虫ばまず」
         抱朴子には
          「牢歯の法、旦朝、歯を建くこと三百下、良しとなす」
         などとあります。

       また、「歯木をかむ」というのは、古くから増堂で行われていたことで、

         金光明最勝王経に
          「晨朝の時に於て、先づ歯木を噛み云々」
         と出ています。
           その材料には、苦渋辛竦なる者を佳しとす、
         とあるのでクロモジが用いられたり、菩薩の護持するもので、天魔鬼魅を防ぐ、というので、桑の木が用いられたということです。
         これを朝ごとに噛んだ。そして、その噛み口を、今のブラシのように使って歯の掃除したのですが、歯の運動によって歯肉や歯をささえている骨部を刺戟して、歯を強固にすることに役立ったにちがいありません。いまの歯科の方で、歯ブラシは硬いものがよいとされているのも、同じ理由からでしょう。

       ですから「歯を叩く」文字どおりに歯や歯肉を指でたたいてもよいわけですし、かたい食べ物をよくかんで食べるのも、同じ理窟です。むかしから「歯固め」といって、正月や7月に餅や栗、豆、昆布、スルメ、などを食べるならわしがあります。

          「歯は齢の意で、もとは年の始めに、歯にこたへる物を食べて齢を固める祝い事とした」

        と、足立氏の日本食物史にあるように、歯を強くして、健康長寿を祝い願ったものです。

       かたい食物をよくかんで食べていた原始人や自然生活者の歯が丈夫だったのは、かたい線維をかむことで十分の運動があたえられたこと。また同時に歯の掃除もできていたこと。そして、そうした粗食が栄養的には、むしろすぐれていたこと、をおしえるものだ、とみてよいでしょう。

       現代人、ことに子供たちに歯の悪いものが非常に多いこと、また、その予防法としていろいろのことが企てられていることもよく知られていますが、ただ歯みがき運動だけでなく、もっと積極的の強健法を講ずべきでしょう。
       それには、まず、幼いときから、もっと固いものをよくかんで食べる癖をつけることです。
       そして食物全体としての完全化、ことに自然化をはかることです。
       いまの子供たちの栄養そのものも、その道の大家の指導に拘らず、随分とまちがっているようですが、さらに考慮を要するのは、子供たちの間食の菓子です。
       添加されている薬品、人工甘味、色素などの害は措くとしても、糖分過剰とビタミンとの不均衡による栄養上の不利益。
       また粘着性の強いもの(とくにウ歯発生に関係がふかいといわれる)の多いこともさることながら、もっと注目すべきはかむことが殆んどなくなってしまっていることではないでしょうか。
       それでは、「チウインガムがよかろう」ですが、なるほどこれは、歯の掃除にはよいかも知れませんが、運動という点では、これとても、もひとつ、どうも大した期待はかけられそうもないようです。
       やはり、私どもが子供の頃たべたような、かたい炒り豆(ソラ豆、大豆など)、かち栗、昆布、かんころ、するめ、などにしたほうが、ずっとマシだと私は思います。
       といって、歯の弱いものや悪いものが、あまり気張ってかち栗など食ってはなりません。先年、まだ私の母が生きていた頃のことです。
       久しぶりに郷里に帰り、炬燵にあたって四方山の物語りなどして子供心になり、「おまえの好物だから」と出されたかち栗を、調子にのって噛みしめていましたが、力を入れた途端に、「バリッ」とばかり、大切な奥歯を一つ見事にかみ破ってしまい、「やっぱし年は争えぬ」とつくづく感じたことでした。
       全くとんだ歯固めをやったものです。冬が来ると、いつも、このことが思い出されます。

      <1963年 12月 健康と青汁第88号より>




      ご意見・ご要望はこちらへクリック
      階層リンク 田辺食品 利用者の声 上の階層へ  
      サービスリンク 更新記録 全体構成 商品紹介 注文方法
      Copyright 2007 07 田辺食品株式会社